ジャーナリストのトルコ入国拒否問題が新聞記事に

takase222015-05-26

うーん、すごい!と唸ってしまう映画を試写で観てきた。
『ルック・オブ・サイレンス』(ジョシュア・オッペンハイマー監督)

100万人が殺されたとされるインドネシアの930事件(1965年)を扱った『アクト・オブ・キリング』の続編だ。http://www.los-movie.com/
『アクト・・』が、虐殺の実行者たちを中心にしたのに対して、『ルック・・』は、犠牲者の側に目線があり、兄の殺害に関与した者たちを次々に訪ね歩く男が主人公になっている。
虐殺の実行者たちは、「英雄」とされ、今、権力側の人間である。ほとんど罪の意識を持っていないことに驚く。それを誇りにする政治家、命令だったから仕方がなかったと居直る人も。殺された「共産主義者」の遺族らは、暴力を受け、財産を奪われ、今も就職差別をはじめ多くの不利益をこうむっている。理不尽きわまりない。
ナチスユダヤ人狩りポルポト派による「人民の敵」の抹殺などのケースでは、どんなことが行われたのだろう。人間とは何かと考えさせられる。
主人公が兄の殺害に関係した人々と対峙するたびに、画面にどきどきする緊張感、そして恐怖が漂う。
写真は、虐殺者たちが、こうやって殺したんだと図解までしながらとくとくと語るシーン。
よくもこんな映画が制作できたものだ。前作に続いて、世界中で大きな反響を巻き起こしているという。
7月から全国で上映されるそうだ。多くの人に観てほしい。
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先々週、日本のジャーナリストが次々にトルコで入国拒否にあっていると書いたが、朝日新聞が「ニュースQ3」というコーナーで記事を出した。

『トルコ、相次ぐジャーナリストの入国拒否』

《ジャーナリストたちが今月、取材しようとトルコに向かったものの、相次いで入国を拒否され、日本に強制送還された。いったいトルコで何が起こっているのか。

 ■審査場で拒否、来た便で帰国

 「入国できない。来た便で帰ってもらう」。イスタンブールのアタチュルク空港。アフガニスタンなどで戦禍を取材してきたフリージャーナリストの男性(44)は12日、入国審査場でパスポートを提示するや否や、入国管理官からこう言われた。

 そして「入国拒否通知」という紙が手渡された。トルコの出入国に関する法律に「滞在目的が不明確だったり、公共の安全を乱すと見なされたりした場合には強制送還」とあり、これに該当するという。「トルコ政府が決めたことだ」と管理官。男性は結局、乗ってきた飛行機で、とんぼ返りする羽目になった。

 ■シリアへ渡航、政府が警戒?

 トルコは、世界遺産が13カ所あり、日本からも年間20万人ほどの観光客が訪れる。一方、隣国であるシリア、イラクで勢力を伸ばす過激派組織「イスラム国」(IS)に加わる外国人戦闘員や、取材するジャーナリストの中継地にもなっている。シリア国境のほとんどは、過激派組織などが掌握しており、入国審査なしで入国できてしまう。

 トルコ外務省によると、これまでテロ組織との関与が疑われる人物約1400人以上を国外追放し、約700人を入国禁止にした。「第三国から得た情報に基づき、空港でリスク分析部門がコントロールしている」という。ジャーナリストが対象になるかは、取材に明らかにしていない。

 男性はこれまで、トルコ経由で2回シリアを取材。昨年9月もトルコ国内の取材のため、入国できた。今回もトルコだけで取材する予定だったが、渡航直前、成田空港で千葉県警職務質問され、渡航先や職業を聴かれたという。フリージャーナリストの後藤健二さんらの人質事件があったからだと説明された。

 外務省はシリア全域とトルコのシリア国境地帯に「退避勧告」を出しているが、トルコ入国については「特定の個人の渡航制限のために入国拒否を促すことはない」(領事局政策課)という。男性は「シリアに行くのではと、トルコ政府に警戒されたのかもしれない」と話す。

 ■フリーの記者、取材が困難に

 シリアからトルコに避難した女性を取材するため、7日にトルコに向かったフリージャーナリストの鈴木美優さん(25)も、入国審査場でパスポートを見せるなり別室に移された。6畳ほどの部屋に男性8人と押し込まれ、約7時間足止めされた。担当者は「ささいな問題だ」と繰り返すだけだったが、「来年1月まで入国できない」と告げられ、強制送還させられた。

 鈴木さんはかつて3回、シリアに入って取材したことがあり、トルコの警察官にパスポートの番号をひかえられたこともあった。「フリーではシリア政府の取材ビザも取れず、ほかに取材するすべがない」

 人道支援をしながら中東などで取材を続けるフリージャーナリストの西谷文和さん(54)も「このままでは、トルコに流入したシリア難民の取材もできなくなる」と懸念を示す。(牛尾梓、イスタンブール=春日芳晃)》

この記事では、入国拒否の原因が、日本側にあるのかトルコ側にあるのか、明らかになっていないこともあり、事態の深刻度がよくわからない。
外務省はやっていないと言うが、この地域を取材する他のジャーナリストからの情報などを聞くと、日本側(外務省とは限らない)が、ある働きかけをしている可能性が高いと思う。
この事態を伝えたのは、TBS「報道特集」と朝日新聞のみ。
もっと取り上げられるべき問題である。