バンコクで足を撃たれた戦場カメラマン

takase222014-02-03

戦場カメラマンとして名高いジェイムズ・ナクトウェイが負傷した。
タイのバンコクで、選挙前日の1日、選挙に反対する反政府派と投票を求める政府派との間で発砲事件が発生して負傷者が出たが、そのなかに彼がいるのを新聞記事で知った。足を撃たれたという。ナクトウェイがバンコクにいたのか・・
キャパ賞を5回も受賞したカリスマである。旧ユーゴ、チェチェンイラクなどの戦場から米国の格差と犯罪の問題、公害やHIVまで幅広いテーマを世界中で取材してきた。直接に会ったことはないが、彼の作品と風貌、話しぶりと語る内容から、自然に尊敬の念を抱くようになった。本物だと感じさせるものを持っている。
「正統派」の戦場カメラマンがいかなるものか、興味のある人は以下のサイトで、彼が自らの仕事を振り返ったスピーチを見てほしい。日本語訳がある。
http://www.ted.com/talks/james_nachtwey_s_searing_pictures_of_war.html

彼のホームページには、
"I have been a witness, and these pictures are my testimony.
The events I have recorded should not be forgotten and must not be repeated."
(私は事件の証人であり、私の写真は証言である。
私が記録したことがらは、忘れてはならず、また繰り返してはならない)
とある。かっこいい。彼のような本物にしかいえない。
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さて、2日に行われた総選挙(下院、定数500)の投票が大混乱になって、ついにタイの選挙が各紙一面に載った。
反政府派は首都バンコクとタイ南部で投票を妨害。反政府デモ隊は、投票用紙の保管所を封鎖して運ばせないようにしたほか、投票所の入り口を閉鎖したりもした。ある投票所の様子を朝日新聞はこう報じている。
《「強制排除はしない」という政府方針のもと、警察官や兵士は遠巻きに事態を眺めているだけ。地区選管は早々に投票中止を決めた》
政府側が強硬手段を採らないのは、クーデターを警戒してのことだろう。
選挙自体が無効になる可能性がある。政府は再選挙の方針だが、憲法には総選挙の全国同一実施の規定がある。
《仮に再選挙が行われても、議会を招集できるようになるまでには4〜6ヶ月かかるとされる。その間に反政府色が濃い裁判所などが公務停止や政党解散命令を出し、政権を追い込む可能性も指摘されている》(朝日新聞3日朝刊)
この指摘どおり、事態が泥沼化して、混乱のなか、裁判所が政府の息の根を止めるというシナリオがかなりありそうだ。この辺の事情については改めて書く。
NHKのニュース9は大越キャスターがバンコクから中継で伝えていた。
「地方の貧しい農民」対「都市部の富裕層・中間層」の対立を中心に解説していた。そういう一面もあるけれど、それだけではここまで激しい政争にはならない。
背景には王室の後継問題ともからむ権力構造自体の危機があり、そしてさらにその底をのぞくと、激しい階級闘争の火が見える。
このブログでは、11月から、タイの事態は落しどころが見えずに危ういと書いてきた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20131129
だが、もう少しで緊張の飽和点に達しそうな予感がする。
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ナクトウェイがいたということは、はやりタイの事態を重視していたのだろう。
彼は何を取材していたのか、そこが気になる