青い空を背景に、色づいたヤマボウシの葉っぱ。
うつくしい。だが、あと数日ですっかり裸になってしまうだろう。
そろそろ寒冷ジンマシンが出てきた。雪国生まれなのに、情けない。東南アジアに10年住んだあとに出るようになったと思う。体質が変わったのか。
またタイに住みたいものだ。
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緊張が高まっていたタイの事態だが、実にタイ的な形で事態が動きつつある。
テレビ朝日の夜のニュースから。
『反政府派が「勝利宣言」し、デモ隊が首相府や警察へ』
「タイの反政府デモで首相府、警察が衝突を避ける形でデモ隊を敷地の中に受け入れました。
(河野太一記者報告)
事態は急変しています。デモ隊は拠点とする民主記念塔からすべてのグループを投入し、警察との全面対決が予想されていましたが、警察側は自ら封鎖を解除し、首相府、そして警察本部の敷地をデモ隊に開放しました。
バンコクの警察本部では、デモ隊がバリケードを排除する形で敷地の中に入りました。また、首相府では、治安部隊が撤収した後、デモ隊が敷地の中に流れ込んだ形です。新たなけが人を出すことなく、デモ隊側は目的を果たしました。デモを主導するステープ元副首相ですが、3日午後に勝利宣言をしました。タクシン元首相の政治体制を打破するため、新たな政治の仕組みを作るとしていますが、その中身、手法については具体的に明らかになっていません。
一方のインラック首相ですが、5日のプミポン国王の誕生日セレモニーの準備のため、バンコク近郊のホアヒンに向かいました。ここで、同じセレモニーに出席する陸海空の軍の司令官と何らかの協議を持つものとみられます。今後、インラック首相がどのような対応を取るのか、そして影響力のある軍がこれまでの中立的な立場から事態の収拾に乗り出すのかどうかが焦点となります。」
なんと、警察と治安部隊が、デモ隊を「どうぞ」とばかりに首相府と警察本部に事実上招きいれたのだ。
外国人は、おいおい、なぜ「暴徒」をお客さん扱いするのか、と目を剥きそうな光景だが、タイの事情を知っている人なら、「やっぱりね」と苦笑するだろう。
そもそも、なぜタイでこうした対立・騒動が間欠泉のように起きるのか。
一昨日あたりから、各紙で、タイの政争の構図・背景についての解説が載るようになった。朝日の1日付け記事は;
《双方の対立は、2006年の軍事クーデターでタクシン元首相が失脚して以来、ずっと続いている。新興企業のオーナーとして成功したタクシン氏は01年に首相に就任。地方に住む低所得者に手厚い政策を進めた。これに対し、都市の知識人や既得権層が反発し、政治的混乱の中でクーデターが起きた。
タクシン氏は国外に逃亡したが、選挙のたびにタクシン派が勝利し、11年の総選挙以降はタイ貢献党を率いる実妹のインラック氏が首相を務めている。
選挙では勝てない野党・民主党がとったのが今回のような方法だ。タクシン氏を帰国させるための恩赦法案が11月に否決されたのを機に、一気に攻勢に出ようとしているのだ。》
「新興企業のオーナー」のタクシンと「既得権層」の対立という構図はその通りだ。
既得権層は国軍を後ろ盾に、強固な政治支配を続けてきた。これに挑戦したのがタクシン・チナワットの一族だ。タクシンは携帯電話のレンタルからビジネスをはじめ、まだ「既得権層」が支配していない情報通信産業で大成功。タイ最大のチナワット(シナワットとも表記される)財閥を一代で築き上げた。
金にものを言わせて政界に乗り込み、小政党を次々に呑み込んであっという間に絶対与党を従える首相に上り詰めた。彼にとって、政治権力はもちろん彼の一族の今後の利権を拡大するためのものである。当然、「既得権層」と激しくぶつからざるを得ない。
記事が触れていないのは、これまでの「既得権層」の支配が、国王の権威によって支えられ保証されてきたということだ。国王は軍の指揮権も持つ。
タクシンらの「新興勢力」は、国王の権威への挑戦ともなるのだ。
2006年、「既得権層」が反撃に出た。軍を動かしクーデターでタクシンを首相の座から引きずり下ろした。しかし、選挙をすれば必ずまたタクシン派が政権を獲る。「既得権層」にとっては体制の危機である。
さらに、国王は5日で86歳。もう時間がない。
これが、繰り返されるタイの政争の震源だ。
インラック首相が、国軍の介入を招かないように、卑屈とも見える態度を採っているのも、警察や治安部隊がデモ隊(反タクシン派)に「やさしい」のも、こういう背景から納得できるだろう。
いま、裏で落しどころをめぐっての暗闘が続いているに違いない。明日からどう動くのか・・・
(つづく)