シリアより北朝鮮に介入を

オバマが突っ走っている。
シリア現地で化学兵器使用疑惑を査察している国連調査団は31日午前にシリアを出国する。もうすぐ結果がでるのだが、オバマはそれを待たずに攻撃したい。その姿勢は、英国議会がシリア攻撃に参加する提案を否決しても変わっていない。
アメリカでも本来、開戦には議会の決議が必要なのだが、今の世論状況ではとても決議できそうにない。オバマはいまやるしかないと思っているとの観測がある。だから、国連の調査結果を待てないのだと。
しかし、そこまで前のめりになる理由がいま一つわからない。
そもそも、化学兵器(らしきもの)を使ったのはどの勢力なのか。
識者の見方は?
《米国の文脈で言うと、この時点でのシリアへの軍事攻撃は、米国が支援する反体制派側の戦況が悪くなったため情勢を好転させるためであり、イスラエルの敵であるシリアから化学兵器を一掃できるチャンスでもある。
 シリア反体制派の文脈でいうと、当初から政治的にも軍事的にもアサド政権に勝つ見込みはなかった。外国の軍事介入を呼び込んで政権を倒すのが戦術。今回、それが絵に描いたようにうまくいった。》(高岡豊氏 中東調査会研究員: 朝日新聞29日朝刊より)
で、結局、どっちがやったの?・・・それは書かれていない。どっちがやっても説明はできるということだ。
中東に詳しい私の友人たちの意見も分かれる。
不明なことが多くて、自分がどういう態度をとったらいいのか迷う。
興味深かったのは、ヒューマンライツウォッチの声明。情勢を見る「基準」「視点」が実に明確なのだ。


シリアへの軍事介入の可能性に関する声明 (8月28日)
《2013年8月21日に、シリアの首都ダマスカス近郊の東・西グータ地区で化学兵器によると思われる攻撃があったことを受けて、米国、英国、フランス他がシリアに対する軍事介入を検討している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは本件に関し、支持・反対いずれの立場も取らない。しかし、いかなる軍事介入も、シリアの全ての民間人をさらなる残虐行為からどの程度守ることができるのか、という観点から判断されるべきであると考える。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は「『眠っている子どもたちに毒ガスを浴びせるべからず』という、基本的な人道主義規範順守の名目で実行される軍事行動は、化学兵器であれ従来の兵器であれ、それらを用いたさらなる違法攻撃から、全ての民間人を保護できるかどうかによって判断されることになる」と述べる。
軍事介入が行われる場合は、戦闘の全当事者が戦争法を厳守せねばならない。戦争法は一般市民に対する意図的な攻撃や、一般市民と戦闘員を区別しない攻撃、予想される軍事的利益に比して、過剰な危害を一般市民にもたらす攻撃を禁じている。クラスター弾や対人地雷など禁止された兵器も使用されるべきではない。戦闘の当事者は一般市民への危害を最小限にすべく、実行可能なあらゆる予防措置を講じ、一般市民を攻撃目標から確実にはずし、人口密集地への部隊展開を避けねばならない。広範な人権侵害で知られる政府軍、あるいは反政府武装勢力への武器や物資の供給は、侵害の共犯行為となり得る。
軍事行動の当事者はそれに付随する人道上の必要性を考慮し、包括的な計画をもとにして、こうした必要に応えるべきだ。シリア政府の許可を得た救援物資のみでは不十分なことを考慮に入れ、同国の同意にかかわりなく、国境を越えた支援活動を飛躍的に拡大すべきだろう。戦闘の当事者は一様に、危機に直面している民間人への人道援助を認めなければならない。
ロシアと中国の再三にわたる拒否権行使で、国連安保理はシリア問題をめぐって2年以上もこう着状態に陥っており、残虐行為抑制の一翼を担うことができなかった。軍事介入はさておき、安保理はシリアの事態を国際刑事裁判所(ICC)に付託すべきだ。これにより、国際法の重大な違反者を適切に訴追することができるようになる。そして、そうした疑いのある個人に対する制裁措置も発動すべきである。》
http://www.hrw.org/ja/news/2013/08/28-0

シリアに介入せよと主張しながら、軍事介入する場合は、民間人に危害が及ばぬようにせよといっている。

一方、29日から東京で、「北朝鮮の人権に関する国連調査委員会」の公聴会が開かれた。
《日本人拉致など北朝鮮による人権侵害の実態を把握するため、国連人権理事会が今年3月に新設した調査委員会の公聴会が29日、東京・青山の国連大学で始まった。初日は拉致被害者の家族らが証言。
 公聴会は、田口八重子さん(失踪当時22)の兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(75)、横田めぐみさん(同13)の父滋さん(80)と母早紀江さん(77)ら、日本政府認定の拉致被害者家族のほか、北朝鮮による拉致の可能性を否定できない特定失踪者の家族らも対象。》(日経)
公聴会にもヒューマンライツウォッチは意欲的に取り組んでいる。
《(東京)−『北朝鮮における「人道に対する罪」を止める国際NGO連合(以下ICNK)』は本日、8月29日から東京で公聴会(パブリック・ヒアリング)を開く「北朝鮮の人権に関する国連調査委員会」に大きな期待を寄せていると述べると共に、同委員会の活動に関係する情報を持つ全ての人びとに対し、調査への協力を呼びかけた。
アムネスティ・インターナショナルヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際人権連盟(FIDH)、クリスチャン・ソリダリティ・ワールドワイドなど42の人権団体からなるICNKは、北朝鮮政府による人権侵害について、前述の国連委員会の活動が新たな光をあてるに違いないと述べた。
ICNKメンバーであるヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表代理 吉岡利代は、「国連調査委員会が東京で証言収集を始めるにあたり、ICNKは北朝鮮政府に対し、人権を尊重するよう求めるキャンペーンを継続していく。ICNKのメンバー団体は、北朝鮮政府が行ってきた日本など外国国籍者の拉致、政治犯の大量投獄、強制収容所での飢餓、拷問、超法規的処刑などの人権侵害の証拠を多数集めてきた。私たちが『人道に対する罪』であると考えるこれらを含む重要な犯罪行為の証拠を、国連調査委員会が明らかにすることを私たちは期待している」と述べた。
同委員会の活動開始を歓迎し、前出の吉岡は更に「北朝鮮の人権問題は惨憺たる状況のままだ。同国は、非常に深刻で広範かつ組織的な人権侵害を行っており朝鮮民主主義人民共和国の人権状況に関する前・国連特別報告者は、同国の人権状況を、世界に類をみない『独自のカテゴリー(sui generis)』であると報告した北朝鮮国内では、日常的に人権が否定されているのが現実だ」と主張した。
ICNKは、国連調査委員会の調査結果が、北朝鮮の人権状況に関するこれまでで最も確実で権威ある報告となることを期待している。同委員会の結論と勧告は、北朝鮮での人権保護に向けた、世界的な動きを更に促進することとなるだろう。》(8月26日)
ヒューマンライツウォッチやアムネスティなど世界を代表する人権NGOが、ここまで拉致問題など北朝鮮の人権問題に大きな関心を寄せるようになったか、と感慨深い。
日本でも「進歩的な」人権団体が、在日差別は取り上げても、拉致など北朝鮮の人権問題には口をつぐ。む時代が長く続いた。
ヒューマンライツウォッチは、北朝鮮の人権状況を、《人道に対する罪》であり《世界に類をみない『独自のカテゴリー(sui generis)』》と呼んだ。
本来、シリアの化学兵器の問題よりはるかに深刻で、もっとずっと早く「介入」すべきなのだ。
北朝鮮に、人権査察と人道介入を―