はらはらと散りゆく花の一ひらか

takase222013-05-08

きょうはよく晴れた。
こでまりが咲いていた。
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先週の朝日歌壇(4/29)から常連の入選作。
チンドン屋さんしゃがんでコーラ飲んだ後また鳴らし出す桜の下で (松田わこ)
「おすわり!」「待て!」ルーリー私と似ているねわたしの言うこと全然聞かない (高橋理沙子)
小雨降る夜の獄庭をノッソリと大山椒魚の這い回るなり (郷 隼人)
次は、私と同年輩の人かなと思う。幸せを祈りたくなる。
新郎として誂(あつら)えしモーニング三十年経て父として着る (水野一也)

今週は中村桃子さん二首入選。
「背のびたね」先生の言うひとことで見るもの全部かがやく四月 (中村桃子)
マダニなんてこの世にいるから大好きな川原に行けない春っていうのに (中村桃子)
いっせいに草原のように私たち初めて笑った三年五組 (松田梨子)

上田結香さんは、また気になる歌を詠んできた。
ルーベンス展二度と会わない人と見るこの絵にはまた会うだろうけど (上田結香)

歌壇のとなりにある俳壇に目をやったら、この句が目についた。

カレーでも作るか妻の春愁に (加賀市 西やすのり)

この句を稲畑汀子金子兜太がともに選んでいたのだ。
以前もこのブログで触れたが、稲畑汀子(いなはたていこ)は高濱虚子の孫で「伝統俳句協会」会長、有季定型の伝統を守る正統派の大御所。
かたや金子兜太(かねことうた)は戦後の前衛俳句、社会性俳句の旗手で「現代俳句協会」名誉会長と正反対の路線を歩む。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20081013
この二人が、同じ句を佳作に選ぶことがあるのか、と驚いた。
妻が更年期うつ病にでもなっているのか。元気付けにカレーでも作ってやるか。どっこいしょと腰を上げて台所に向かう亭主という感じだろうか。
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きょう横田早紀江さんと取材でお会いしたさい、1時間以上二人きりで雑談した。早紀江さんが一番最初に詠んだ短歌を初めて知った。
早紀江さんは、めぐみさんがいなくなってから、塗炭の苦しみで自殺も考えるなか、何とか気をまぎらわそうと短歌を詠み、絵を描いた。特に習ったわけでもないが、春のある日、庭先を見ていたら自然に短歌が浮かんできたという。

はらはらと散りゆく花の一ひらか
   孵(かえ)りし白き蝶の交じりて

77年11月にめぐみさんが行方不明になり、この歌を詠んだのが翌78年の春だ。
この短歌の存在を私は知らなかった。ど素人の私でも、これはうまいなと思う。
こういう表現が「自然に」出てくるというのはどういうことなのか。すごいとしかいいようがない。
この一首を試しに朝日歌壇に送った。そのままほっておいたら知り合いから電話で「朝日歌壇に入選しているわよ!」と知らされた。その後は、一度も投稿していないという。気をまぎらせるために詠んでいるので入選することに意味を見出せなかったし、格別うまく詠もうとも思わなかったからだ。
早紀江さんの短歌を何度もブログで紹介してきたが、以下の「朝日歌壇に何度も入選した」と書いた部分は訂正します。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080813