たづきなき避難者われは流れきて

takase222012-08-06

きょうの朝日歌壇は、梨子、わこ姉妹にお母さんも入選。
3人とも京都旅行を詠んでいる。夏休みの家族旅行だろう。
まずお母さんから。
最後まで地図を見る娘とその町の人に聞く子と京を旅する                松田由起子(高野選)
たぶん前者が姉の梨子さん、後者がわこさんだと思う。
姉妹でも性格やふるまいが違う、それが旅という非日常できわだって見える。私も娘が二人だからよく分かる。
何年も前になるが、島に遊びにいって釣りをした。鯖がかかっておもしろかったのだが、普段釣りなどやったことがなく、すぐに糸がこんがらかった。面倒なので切ろうとしたら上の娘が引き取って、長いこと糸と格闘してついにほどいた。こんなに根気のある娘だったのかと驚いた。普段とは違う環境のなかで、意外な面に気づいたりするのである。
旅先の京都でそれぞれのふるまいをおもしろがっているお母さん。実に幸せそうだ。
仁和寺のもみじの青がまぶしくてまばたきをする何度も何度も                 松田梨子(馬場、高野選)
ハート型の絵馬を結んで白い砂利鳴らして歩く上賀茂神社                 松田わこ(永田、佐佐木、高野選)
4人の選者全員が姉妹いずれか(高野氏は両方)の歌を選んでいる。つまり、誰かが松田姉妹にえこひいきしているというわけでもなさそうだ。

歌壇には、しかし、こういう幸せな歌ばかりのっているわけではない。
親族は誰も看取れず父逝きぬ最期を知るはモニターばかり                 (東京都)東 賢三郎
きっと、普段は連絡しあっている父なのだが、急逝して間に合わなかったのだろう。死んでも、こうやって悲しむ親族が誰もベッド際にいない人も多くなっている。
ひっかかったのはこの歌。
たづきなき避難者われは流れきて山谷に暮らすほのかなたづき                 (東京都)シンタロウ
「たづき」とは「たつき」とも言い、生活の手段、生計のこと。
どこからなぜ避難してきたのだろう。ひょっとして原発事故の被災者なのかも知れない。
心配になる。
写真は、中村医師がアフガンに作った水路。ここは沙漠だったのが、見事に緑の大地によみがえった。
ここでは、食えないからと故郷を捨て難民となった人々が、緑に吸い寄せられるようにしてこの地に定住し、難民生活を脱している。暮らしに根ができたのである。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090828?_ts=1344267962
人間にとってほんとうに必要なものが何か、ラディカルに(根底的に)考えさせられる。