電気は金日成のライトアップだけに

takase222012-08-05

なかなか行けなくて、きょうが最終日になってしまった「世界報道写真展」(於東京写真美術館)を観てきた。
今年は5247人(124の国と地域)の写真家が応募した10万1254点の中から、選ばれた約170点が展示されている。東日本大震災アラブの春など2011年の大きな出来事に関する写真から自然、日常生活、「アート&エンタテインメント」など広い分野の報道写真の力作がそろっている。
http://www.asahi.com/event/wpph/
会場はかなり込み合っていて、若い人と外国人の姿が目立った。
展示をみて、世界は広くて多様だなと思う。また、多くの不幸が映し出されているが、不幸もまた実に多様である。
写真の迫力がすばらしく、一枚ごとに考えさせられる。この事態をなんとかしなくては、という気持ちと、世界はこういうものだという諦観と。
大賞はサムエル・アランダ氏(スペイン)。イエメンでサレフ大統領に対する抗議行動で負傷した息子を抱きかかえる女性の写真。
処刑されたキリストを抱くマリアを描いた「ピエタ」を思い起こさせると評判の一枚で、黒布で全身を覆った母親の姿に不思議な精神性を感じる。
上のサイトでぜひごらん下さい。
「一般ニュース」の部の組写真1位に選ばれたのは、リビアの政変を取材したレミ・オシュリク氏(仏)。霊安室に横たわるカダフィ大佐の遺体もあった。オシュリク氏は、その後、シリア取に転じ、取材中に砲弾で命を落としたという。命がけの撮影だ。
印象に残ったのは、ダミール・サゴルジ(Damir Sagolj)の北朝鮮での一枚。ボスニアヘルルェゴビナ出身のロイターのカメラマンだ。カメラはユーゴ内戦時代にはじめ、アフガン、イラクも取材している。
真っ暗な住宅街の中にポツンと光が一点に差している。浮かんでいるのは金日成肖像画だ。以下のサイトで大きな写真がみられる。
http://www.we-find-wildness.com/2011/10/damir-sagolj/
たぶん停電なのだろう、街中が暗い。その中で、金日成肖像画にだけは電気をまわしてライトアップしているこの光景は、今の北朝鮮を象徴している。いい写真だと思う。
「日常生活」の部で単写真1位に輝いた。
自由な取材が許されない北朝鮮国内でも、取材者が狙いをしっかりもてば、ここまでの表現が可能なのだ。問題は取材者の「狙い」である。
勉強になりました。