東電会見の嘘

takase222011-12-08

「マスコミって、ほんとのことを伝えてないんですよね」
当然ですよねといわんばかりに、こう語りかけられることがよくある。
非常時にこそ役割を果たすべきメディアが、戦後最大の国難と言ってよい、この時期に、信頼をどん底まで低下させているのだ。
先日、地方テレビ局の取締役になっている友人が上京して、久しぶりに飲んだが、彼も同じ認識で、今がテレビの最大の危機だと憂えていた。では、どうしたらいいのか。
国民から不信をかった理由は、原発事故報道だ。
だから、まずはそれを振り返って分析し、問題点がどこにあったかを明らかにしなくてはならない。
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電事連電気事業連合会、東電など電力会社の連合体)が莫大な広告費でメディアをコントロールしていることが根本問題なのだとよく言われる。
広告費が潤沢であることは事実で、使い切れない予算を消化するために、特番の製作が突然テレビ局に持ち込まれることもある。私の会社も電事連スポンサーの大型番組を手がけたことがある。生々しい駆け引きもあったのだが、それはまたいずれ。
電力会社は、たしかにテレビ局のお得意様なのだが、それだけで、原発事故報道の問題点が説明できるわけではないと私は思う。

これについて、ゆうべ、「自由人権協会」が非常にためになる勉強会を催した。
題して「東電会見の嘘〜発表ジャーナリズムの限界」。案内文は;
《弁護士の日隅一雄氏とライターの木野龍逸氏をお招きして、東電会見に参加し続けたことで見えてきた、東電福島第一原発事故の本質、東電の情報隠蔽体質の問題、チェック機能を果たせなかったメディアの問題などについて検証していただきます》
面白そうでしょう。開始に5分ほど遅れて着いたら、もう会場から人が溢れて何人もが廊下に立っている。あとで聞いたら、協会はじまって以来の盛況だったという。
日隅さんは、元産経新聞記者の弁護士、「ヤメ記者弁護士」。がんの闘病をしながら会見に出続けた。ブログはhttp://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005
木野さんはフリーランスのライター兼カメラマンで、自動車情報を中心に取材して雑誌や新聞に書いている。ブログはhttp://kinoryu.cocolog-nifty.com/
二人とも、原発事故に専門的な知識を持っているわけではない。だが、会見に出続けているうちに、このままでは全国民がだまされてしまうと危機感を持ち、大マスコミがやらない鋭い質問でいくつものスクープを生んだ。
彼らが会見でのマスメディアのありようを指摘したことで、一つ印象に残ったのが;
「東電の会見場では、テレビがつけっぱなしになっていて、枝野官房長官の会見が流れていたりするのだが、記者たちは興味さなそうで観ない。本来は、枝野会見と東電の会見の整合性を詰めるのが大事だと思うのだが、記者たちは、東電の会見という与えられた仕事と関係ないと思っているようだった」
これは、大局を見失って、小さな分業化された自分の仕事に閉じこもっているということなのだろうか、
もう一つ;
「会見には、応援部隊が多く、原発のことを何も知らない。そこで基本的な用語などを東電から教えてもらうという状態だった」
この応援部隊には、テレビ局の「非正規」である派遣スタッフがたくさん含まれていた。当時は、津波被害もあって、むちゃくちゃな仕事量だったことは理解できるが、こんな状態では東電会見を咀嚼して批判的にコメントするなどということはハナから無理だ。発表をそのまま流すしかないのも当然だ。
さらに;
「各マスコミには、原発に詳しい記者が必ずいる。そういう人がチームを率いていく態勢が望ましいと思うのだが、実際にはそうなっていなかった。毎日かわる、当番のデスクが全体をまとめていた。ウラを取ることもできず、発表そのままを流すことになった。
こうなったのはなぜか、何らかの「力」が働いた結果なのかはよく分からない」
日隈さん、木野さんの指摘は、なぜマスメディアが政府・東電の発表を垂れ流したかを総括するための貴重な材料を提供している。
二人は近く、本を出すそうなので、それを読んだ上であらためて書こう。