日系企業放射能垂れ流し事件と誤報2

三菱化成が35%出資するARE(アジアン・レアアース)は、精錬の過程で出る放射性廃棄物のずさんな管理によって、近隣住民や労働者に白血病や奇形児出産などを生じさせたと問題にされた。
抗議運動が高まり、裁判も起こされて、結局AREは92年に操業をやめた。
もうそれで終わったのかと思っていたら、今年3月8日の「ニューヨークタイムズ」に”Mitsubishi Quietly Cleans Up Its Former Refinery“(ミツビシ、元の精錬工場で静かに除染作業)という記事が載っている。
http://www.nytimes.com/2011/03/09/business/energy-environment/09rareside.html
閉鎖して20年近くなるのに、放射性物質の除染作業を今もやっているという。記事は、ブキメラを「レアアース業界最大の除染場所」と表現している。大掛かりな作業で、すでにトラック1万1000台分の汚染廃棄物を回収したという。しかも、これからが難所になるようだ。
「ブキメラの除染作業は、この夏、最も困難なヤマ場にさしかかる。ロボットや放射線防護服の労働者がコンクリートの壕から、ドラム缶8万本以上の放射性廃棄物を取り出す作業を開始する予定だ」
記事には、過去の問題が以下のように書かれている。
「ながく白血病などなかった1万1千人の町に、5年間で奇形児の出産や8人もの白血病患者が出たのはレアアース精錬所のせいだと住民は主張した。その後、白血病患者のうち7人は亡くなった」
「町の住民は、日本の環境活動家や政治家にコンタクトし、イメージを大切にする企業が1992年に精錬所を閉鎖し、さらに推定1億ドルを使って工場跡を除染するよう促した。
また三菱化成は、町の学校に16万4千ドルを寄付する一方で病気への責任は認めないという条件で住民と示談に持ち込んだ」
はじめは住民への同情もあり、支援NGOなどの説明を信じていたのだが、少しづつ、「ちょっと待てよ」と思い始めた。
工場が82年に操業を開始し、85年に白血病などの健康被害を理由に住民が操業停止を訴えるのだが、操業後3年とは発病が早すぎないか・・・
放射能について勉強しだすと疑問が膨らんでいく。
さらに、「被害者」たちの団体が、お金をめぐる仲間割れで、互いに悪口を言い出した。そこから、被害者とされる人たちの証言の不自然さも露呈してきた。
妊娠中にAREの工場で働いていたある婦人が産んだ子どもに奇形が見られたというケースがあった。ところが、「彼女が働いていたのは、操業前だ」という情報が聞こえてきた。その女性にあらためて会って確認すると、働いていたのは、たしかに操業前の基礎工事のときで、操業後は工場に入ったことがないことを認めた。
しかも、住んでいる家は、工場のすぐそばではなく、かなり距離がある・・・
放射能の健康への影響を論じるさいに難しいのはここだ。
一人ががんを発症したとして、そのがんが、放射能の影響によるものかどうかを判定することは不可能なのである。
判断材料は疫学的、統計的なものしかない。「この土地の何万人のうちに何百人出たから影響があったと推測される」という形で検討するしかない。
ブキメラのその奇形児が「放射性廃棄物のせいだ」とも「そうではない」とも断言できない。
一方で、AREの廃棄物処理にずさんな点があったのは、たしかに責められるべきだ。
しかし、私の中には「誤報してしまったな」という思いが広がっていった。
(つづく)