1週間前、今の北朝鮮は食糧不足なのかについて書いた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110707
ジャーナリストの石丸次郎さんのセミナーに出て考えたことだが、きょうは、その続き。
北朝鮮政府は国連や各国政府に食糧支援を要請している。崔泰福(チェテボク)最高人民会議議長は3月末、英国を訪れ「60年ぶりの寒波による収穫量減少」を要請した。
聞き飽きた「歴史的自然災害」を持ち出して窮状を訴えている。
これが事実なら食糧不足だということになる。
食糧が不足しているなら、米や穀物の値段が上がるはずだ。
8日の朝日新聞が、韓国開発研究院の北朝鮮経済の分析結果を紹介したが、それによると、昨春よりも平壌で米価が4倍に上昇したという。
やはり食糧不足だから値段が上がっているのだろうと考えたくなるが、同時に、ウォンの対ドルレートが下落し通貨価値が3分の1になっているという。つまり、実質的に米価はたいして上がっていないことになるのだ。
石丸さん情報でも、食糧価格は去年とほぼ同じだという。
一方、石丸さんによれば、いま、大飢餓時代の90年代後半以来最悪の状況で、餓死者も出ているという。
では、食糧不足でないのに、なぜ飢える人が出るのか?
これは、「飢餓は、エンタイトルメントが損なわれた状態において発生する」というアルマティア・セン博士の理論で、説明できる。
エンタイトルメントとは、「人々が十分な食糧などを得られる経済的能力や資格」(食糧その他の生活必需品の購買力、配給を受ける権利のほか、役所などを動かす権限や能力、政治的発言力など)である。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20101209
90年代後半は、国家が食糧の配給ができなくなることによって、人々は食糧獲得の能力や資格を失ったために飢餓が生じた。
その後90年代末からは、自然発生的に闇市経済が発達し、人々は商売でお金を稼ぐことで「エンタイトルメント」を獲得し、そのお金で食糧を購入することで生きることができるようになった。
この小康状態を破壊したのが、09年末の「デノミ」と市場統制だった。
庶民のタンス貯金を紙くずにし、商売の元手を取り上げる一方、死に体の企業にかわって唯一の現金収入の場だった市場を圧殺した。
市場と貨幣の機能を麻痺させることで、国民の食糧へのエンタイトルメントを剥奪したのである。
米がいっぱい入った倉庫のそばで、買うお金がなくて飢え死ぬという構図が現実になっていると考えられるのだ。
「あるところにはある」という状況が極端に現れているのが、今の北朝鮮である。
だが、かつては「優先配給対象」とされた、体制維持のために重要な、軍隊や警察などにも食糧が届かなくなっている。
食糧事情が危機にあるのは事実で、だからこそ、政府の幹部が危機感をもって外国を行脚するわけだ。
支配層までが食えなくなっているのはなぜか。これについては、またあらためて書いてみたい。