福島原発で何が起きているのか

そろそろ明るい話が聞きたいなと思っていたら、ちょうどNHKの7時のニュースで「被災地に“新たな命”」が流れた。
津波にやられた病院で治療を続けた医師に、子どもが産まれたのだった。いい話で励まされる。産室にまでカメラが入っていたから、あるいはこの医師の番組を作る予定で密着していたのかもしれない。
私もかつて海外の災害取材で経験したが、絶望の時期こそ、希望を抱かせるニュースを人々は求めている。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20071017
しかし災害がひと段落したわけではない。私は、パニックは避けたいし、恐怖を煽ることはしたくないのだが、いま、非常に危険な事態が進行中のようだ。いうまでもなく原発事故である。
テレビで東電や政府がひんぱんに発表や説明を行っているが、何が起きているのか分からなかった。何ミリ・シーベルトになったとか、いま海水を注入しようとしているとか、事態の断片が報告されるだけで、今後どういう危険がありえて、いまどの段階にあるのかという肝心な全体状況の説明がないからだ。
ネットで外国特派員協会での後藤政志氏の会見(15日)を聞いてぞっとした。いま我々は時間との闘いの最中にあり、考えたくないような悲劇的な事態に刻一刻と近づいていることを知ったからだ。
後藤氏は、かつて東芝で原子炉格納容器を設計しており、原発を建設する側にいた人である。非常に明快で説得力のある、そしてとても恐ろしい解説である。
http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1015
チェルノブイリでは、核暴走し、水蒸気爆発で格納容器の中の放射性物質が大量に飛散した。
ヨウ素131は気体になって遠くまで運ばれ、特に子どもの甲状腺がんが心配されていた。セシウム137は土壌に定着し、半減期が30年なので、高濃度の土地では長期にわたって人が住めなくなる。私もチェルノブイリを取材したが、周りには無人の広大な土地が広がっていた。
一方、チェルノブイリにつぐ大事故といわれるスリーマイル島事故では、原子炉の冷却ができなくなり、炉心溶融メルトダウン)が起き、燃料が圧力容器の底に溜まったが、格納容器の完全な破壊はまぬがれたという。
福島の原発では、冷却できないまま時間がすぎれば、メルトダウンが起き、水素爆発または水蒸気爆発で格納容器が大規模に破壊される可能性がある。しかも4基で同時並行的に何らかの爆発や火災が起きており(あとの5、6号機も異常事態が進行中だ。どれも一刻も早く冷却しなければならず、まさに時間との闘いである。
政府も「厳しい」という表現を使いはじめた。
《1〜3号機とも水位は燃料棒の上端より低く、一部が露出したまま。経済産業省原子力安全・保安院は「非常に厳しい状態」と指摘し、原子炉や使用済み燃料プール内への注水と冷却に全力を注ぐ構えを示した。
 また政府筋によると、2度火災が起きた4号機への放水を検討。警視庁の高圧放水車が同原発付近に待機した。米軍の高圧放水車も近くに到着。条件が整えば17日朝から4号機に向け、放水を試みる方針。効果を見極めてさらにヘリで上空から放水するという。(略)
 防衛省は同日午後、ヘリを使った上空からの給水を試みたが、周辺の放射線量が高く、同日中の給水は断念した》(16日時事)
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2011031600751
当面、今夜は何らの冷却方法もとれないまま時間が過ぎることになる。最悪の場合、複数の原子炉の格納容器の中で大爆発が起きることも考えられると後藤氏は言う。明日からの冷却作業が間に合えばよいのだが。
アメリカのエネルギー省はじめ外国では、スリーマイル島の事故を越えていると評価しており、その見方を採る日本の研究者もいる。
《京都大原子炉実験所の小出裕章助教原子核工学)は「既に米スリーマイル島の事故(79年)をはるかに超えている。もし福島第1原発2号機の炉心が溶け落ちてしまえば、旧ソ連チェルノブイリ原発事故(86年)になりかねない。1、3号機もその危険を抱えている」と指摘する》(毎日新聞16日)
振り返れば、すでに6年も前に、日本の原発津波に弱いことが、共産党の質問で明らかにされていた。
《2006年3月2日(木)「しんぶん赤旗
原発8割 冷却不能も/津波引き波5メートル 取水できず/炉心溶融の恐れ
吉井議員指摘
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 津波による五メートルの引き波が発生した場合、日本の原発の約八割にあたる四十三基の原発で、冷却水が一時的に海から取水できなくなることが一日、明らかになりました。衆議院予算委員会分科会で、日本共産党の吉井英勝衆院議員の質問に、広瀬研吉経済産業省原子力安全・保安院長が答弁しました。
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経産相が対策約束 吉井議員は、一九六〇年のチリ津波のときに、三陸海岸で約二十五分にわたって引き波が続いたことや、原発のある宮城県女川町で海水面が推定六メートル低下したことを指摘しました。水位が下がった場合、原発の冷却水が海から正常に取水できなくなるのではないかとただしました。
 広瀬院長は、海面が四メートル低下した場合で二十八基、五メートル低下で四十三基、六メートル低下で四十四基の原発が、一時的に取水に必要な水位を下回ると答えました。
 吉井議員は、浜岡原発1号機(静岡県御前崎市)の例をあげ、取水槽の容量からすると「仮に、引き波による水位低下で取水できなくなったときは、三十四秒で冷却不可能になる」と指摘しました。また、途中で原子炉を停止した場合も、崩壊熱(燃料のなかの放射性物質が発生する熱)の除去に毎分六十トンの冷却水が必要になることを示し、「崩壊熱が除去できなければ、炉心溶融や水蒸気爆発など、最悪の場合を想定しなければならない」と、対策を求めました。
 二階俊博経産相は、「安全確保のため、省をあげて真剣に取り組むことをお約束したい」と答えました。
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津波の引き波によって冷却水が取水できなくなる原発(○内は号機)
■水位低下4メートルの場合
 (28基)▼福島第一(1)〜(6)、福島第二(1)〜(4)、美浜(1)〜(3)、高浜(1)〜(4)、大飯(1)〜(4)、島根(1)(2)、伊方(3)、玄海(1)、東海第二、敦賀(1)(2)
■水位低下5メートルの場合
 (43基)▼(上記に加え)泊(1)(2)、柏崎刈羽(1)〜(5)(7)、伊方(1)(2)、玄海(2)〜(4)、川内(1)(2)
■水位低下6メートルの場合
 (44基)▼(上記に加え)柏崎刈羽(6)》
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-03-02/2006030201_01_0.html
今は、過去のことを責めるより、とにかく最悪の事態にならぬよう、関係者の努力を見守り、幸運を祈りたい。