危機に立つリビア体制

リビアが大荒れだ。
《人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は20日、リビアの反政府デモによる死者が少なくとも233人に上っていると明らかにした。同国第2の都市ベンガジでは、デモ隊と治安部隊の激しい衝突で多数の死者が出たと伝えられている。》(ロイター)
実弾が飛び交う状況で、内戦一歩手前のようだ。軍の一部が造反、法相が辞任した。韓国企業の建設現場が群集に襲われ、多くの負傷者が出たとの報道もある。
私は2007年にリビアを取材した。
この国は独特の専制国家だ。
「議会制度は、民主主義の問題への不自然な解決策である」「政党は独裁の現代的形態である」(カダフィの「グリーンブック」より)
という考えの下に、憲法も議会もない。カダフィの一存で政治が動く、いわば「思いつき専制」だ。
個人崇拝は徹底していて、街中に巨大なカダフィ肖像画が掲げられていた。
取材には政府からお目付け役がついてくる。
市場で、市民にマイクを向け、「カダフィ大佐の後継者は誰になると思いますか」と質問すると、すぐに「その質問はやめてください」と遮られた。お目付け役がちょっと離れたすきに、今の政治に満足していますかと一人の老人に聞くと、彼は周りを見回して「そんな質問には答えたくない」と言った。顔にははっきりと怯えがあった。
厳しい言論弾圧の一方で、世界の情報は驚くほど自由に入ってきていた。
どのビルの屋上にも所狭しとパラボラアンテナがある。ほとんどのトリポリ住民は、退屈な国営テレビではなく、300チャンネル以上ある外国の衛星チャンネルを観ていた。CNNやBBCが制裁期間中もずっと空から垂れ流されてきたという。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20071128
しかも、次男のセイフイスラムが、いわゆる改革路線へと転換しはじめていて、緩やかに自由化が進むのかと思っていた。
実際、人権状況も改善していたようだ。
リビアで、表現の自由が拡大し、刑法改正が提案されるなどしており、部分的とはいえ人権状況の改善がみられる。しかし一方で、弾圧的な法律による言論の封殺が続くとともに、国内公安機関(Internal Security Agency)による人権侵害が日常的に起きている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した。》
http://www.hrw.org/ja/news/2009/12/12-1
だが、そんな改革のスピードでは、チュニジアからはじまった、世界同時多発革命の波は防げなかったのだろう。
情報の伝播のもつ威力は、私たちの予想を超えたものになっている。
セイフイスラムのテレビ演説は「リビアは、チュニジアやエジプトとは違う」と強気だったが、傲慢な態度で「内戦か改革か」と国民を恫喝するのをみると、もう長くはなさそうだと感じる。
一方、リビアと並べられる北朝鮮だが、こちらに民衆反乱が飛び火する状況ではない。
携帯電話が普及しはじめたと言っても、国内のみ。(国境付近の商売人が使う携帯は中国の通信会社を使い外国とも通話できる)インターネットで世界の情報に接することもできないし、衛星放送も見られない。
北朝鮮の体制の「硬さ」は別のレベルにある。