脱北者への中国の卑劣な仕打ち

人の命にかかわる、とんでもないことが中国で起きている。
日本に帰りたいと、北朝鮮を命がけで脱出した人々が、中国政府の妨害で日本に帰れないでいる。
一昨年の秋、中国の日本領事館に、すでに1年も留め置かれている脱北者がいると聞き、このブログに書いた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20081221
事態はいっそう酷くなっているようだ。
狭い領事館の外に出られずに、長期間不安を抱えながら暮すのは、監獄よりもストレスが強い。
問題なのは留め置かれた人々だけではない。
当局の逮捕、北朝鮮への強制送還に怯えながら隠れ住む脱北者は、領事館に保護されてはじめて身柄の安全になる。だが、中国から出国できなくては領事館の収容スペースが空かず、次に待っている脱北者を保護できない。領事館に保護してもらいたい脱北者が、いわば外で「行列している」わけである。中国政府の仕打ちは、大量の脱北者が危険な状態に放置されることを意味する。
中国政府は日本に、脱北者を保護するなと圧力をかけているのだ。脱北者という人質を使った卑劣な措置に日本政府は断固として抗議し、脱北者の安全で円滑な出国を実現してほしい。
大挙して中国に飛んで、胡錦涛国家主席と記念写真を撮った民主党の政治家一人ひとりに「あなたはどうするの?」と聞きたい。
以下は、北朝鮮難民救援基金ニュースより。
http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/toppage.htm
基金は明日、この問題で記者会見を開く。

中国政府、脱北者の保護停止を日本側に要求/公館の人質2年に及ぶ、拘禁症状の発症?/無慈悲で野蛮な人権感覚、北朝鮮と同じ  加藤博
7月8日付け「朝日新聞」は1面を大きく割き、異例の中国批判とも取れる「脱北者問題」で日本側に「誓約書」を要求していると鈴木拓也記者の署名記事を報じた。
  この記事の波紋は大きく、北朝鮮脱北者難民や拉致問題を扱うNGOやボランティア活動家に衝撃を与えている。記事は、複数の政府関係者をニュースソースとしているものの、政府関係者に限らず日本国内を拠点に活動するNGOに限らず、国際的な人権団体アムネスティー・インターナショナル(AI)やヒューマンライツ・ウオッチ(HRW)、タイ、ラオスで活動する人権NGOにも取材している模様だ。
 「北朝鮮から脱出し、中国の日本公館に保護されたものの、そのまま足止めされている人が十数人にのぼっていることが、政府関係者への取材でわかった。中国政府は脱北者の増加を警戒して、出国許可と引き換えに、日本側に「今後は脱北者を保護しない」とする内容の誓約書の提出を求めているが、日本側は拒否している。
 複数の政府関係者によると、日本公館に足止めされているのは、1959〜84年の帰還事業で北朝鮮に渡り、その後脱北した元在日韓国・朝鮮人やその家族計十数人。日本での定住を希望しているが、中国政府の出国許可がおりず、公館内に2年もとどまっている人もいるという。
 日本政府はこれまで、原則として出入国管理法で在留資格が認められる元在日韓国・朝鮮人とその3親等以内の家族に限って、人道的な立場から保護してきた。公館への駆け込みが難しい場合は、事前に脱北者の身元を確認して公館職員が公館外で接触して保護。これまで保護した後、日本に移送した人は百数十人にのぼるという。
 中国政府は、拘束した脱北者北朝鮮に強制送還してきた。ただ、外国公館に保護された場合は、脱北者が希望する国への出国を原則的に許可してきた。しかし、2008年夏の北京五輪後は態度を硬化させて、出国を許可しなくなり、昨年7月に手術が必要になった妊婦を例外的に認めて以降、日本への移送は止まったという。
 日本側には「保護された脱北者の出国を認め続ければ、流入が増える」と理解を求めた。公館外での保護も「中国の国内法に触れる」と伝えた。さらに、公館内で保護されている脱北者の出国を認める条件として、今後は脱北者を保護しないとする誓約書の提出を要求しているという。

 日本政府は、06年に施行された北朝鮮人権侵害対処法で、政府に脱北者の保護や支援への努力が求められるようになったこともあり、誓約書提出を拒んでいるが、新たな保護は取りやめている。
 脱北者支援団体によると、近年は、外国公館での足止めなどを嫌い、中国からラオスを経由し、タイに逃れる脱北者が急増しているという。09年に韓国に移送された脱北者2952人のうち、5割以上がタイからという。(鈴木拓也)
http://www.asahi.com/politics/update/0707/TKY201007070537.html?ref=rss
 
誓約書を要求されるいわれは?
 この記事は複数の関係者からの取材となっており、北朝鮮難民救援基金が把握している断片的な事実からしても、限りなく実態を反映したものと判断している。
 脱北者保護、日本受け入れの問題について、日本政府が、積極的な対応をしているとは言いがたいが、中国政府に誓約書を要求されるいわれがつめの垢ほどでもあるのか。国際慣習法を無視し、傍若無人な中国の振る舞いは腹に据えかねる。

日本の政治家はなぜ沈黙する
 私がいつも疑問なのは、人権感覚を逆なでする中国の対応に対して日本の政治家が、なぜ沈黙し続けるのかという点である。
 中国政府のこうしたいやがらせが、真の日中友好に役立つのかという問題提起は、少なくともしないといけないのではないか。だが、胡錦涛国家主席と記念写真を撮るために、百数十人も大挙して人民大会堂に行くのには熱心なのに、中国側に人権問題で進言しているとは寡聞にして聞かない。
 日本外務省担当者が情報を得ているのなら、それは報告しない側に問題があり、情報を得ても発言しないのなら、それは政治家も外務官僚も中国に遠慮し、任務を放棄していると言わざるを得ない。

勇気のある人はいないのですか
 中国政府の公式見解からすれば、「北朝鮮難民はいない」「彼らは、不法入国者不法滞在者」である。
 したがって、脱北者不法滞在者であり、その保護を求める以上、日本外務省としては中国に一定の配慮をしなければならない、と繰り返す外務省の立場には、私は全く同意できない。「外交プロ」を任じている外務官僚は、現状肯定派であって、中国自身が批准している「難民条約」を少しでも尊重、遵守させる努力をしているとは、折に触れ彼らの口から発せられる言動からは窺えない。中国の「厚い壁」と思い込んで現況を少しでも変える努力の跡が見られないのは、残念なことだ。ただ問題を大きくしないことだけに腐心しているように写る。
 中国自身が批准している難民条約を踏みにじり、脱北者難民を逮捕、強制送還している事実は、北朝鮮独裁体制の共犯者となっていると、中国側に伝える勇気のある人はいないのですか。

娘が日本に来たら手術をしたい
 先に日本に帰還を果たした母親から、最近たびたび電話をいただくようになった。2年前には、瀋陽の日本総領事館で一緒に出国を待ち望んだそうだ。私たちが脱北者を支援していると知って、「娘たちを早く日本に来させて欲しい」との依頼である。
 外務省に取り次ぐことしかできない私たちは、何度もこの母親から電話いただく。
 「私は、娘が日本に来たなら脚にできた静脈瘤の手術をしたい。どうして娘たちを早く来させることができないのですか?」
 もう2年も娘たちの来日を待ち続けている、高齢で病気の母親のことを思うと心が痛む。中国政府は、人道問題を政治問題解決のカードに使わず、大人の態度を見せて欲しいと願っているのだが・・・。