脱北者を受け入れる意味6―脱北者問題は中国問題

日本人の脱北者なら邦人保護という大義名分がある。一方、日本国籍を持たない在日帰国者を日本政府が保護することに決めたのは、つい数年前のことだった。この経緯について、三浦小太郎さんがこうまとめている。
脱北者の問題が大きくクローズアップされたのは、2002年5月8日、瀋陽日本領事館への脱北者、金・ハンミ一家の駆け込みと、それを妨害する中国警察との映像が世界に駆け巡ったことだ。この映像は今現在も、中国側の無慈悲な姿勢と脱北者の勇気を伝え続けている。
2002年9月17日の日朝首脳会談は日本中に衝撃を走らせたが、10月30日、中国で北朝鮮難民救援基金の加藤博事務局長が不当逮捕されるという事件が起きる。同氏は11月6日釈放されたが、これ以降、日本国会でも脱北者問題への様々な問題提起がなされるようになる。
2002年年12月から2003年1月まで、民主党中川正春議員、中村哲治議員は、川口順子外務大臣(当時)に数回にわたって脱北者問題について質問を行った。その一部を引用する。
中村哲治議員「元在日朝鮮人(脱北帰国者:三浦注)についてはどのような保護の体制をとるつもりか、また取ってきたのか、教えてください。」
川口外務大臣「一般論では、外国人がわが国の在外公館に庇護を求めてきた場合には、個々の事案について事案について具体的に事情を検討したうえで判断するということです。在日朝鮮人については、外国人ですが、その中には特別永住者として日本に永住可能な、一般の外国人とは異なる法的な地位を持っている人もいるので、そうした点を考慮して具体的に対応をするという考え方です。」(2003年1月27日 第156国会 予算委員会第5号)
この発言で、川口外務大臣は政府答弁として、脱北帰国者の日本受け入れを事実上認めた。現在脱北帰国者支援機構代表で、元東京入管局長の坂中英徳氏は、「脱北帰国者支援は私の使命」(脱北帰国者支援機構発行)にて、受け入れの法的根拠について次のように述べている。
「脱北帰国者のうち、日本国籍を持っている人は、権利として帰国(入国)できますので、日本への入国に何ら問題はありません。元在日朝鮮人は、在日朝鮮人の子・孫として日本あるいは北朝鮮で生まれた人たちですから、日本の入管法では「定住者」という在留資格に該当しますので、日本への入国が認められます。それから日本人の子として生まれた外国人や日本人の配偶者の場合、「日本人の配偶者等」という在留資格に該当しますので、日本への入国が認められます。」》
http://72.14.235.132/search?q=cache:65aAZ1FbVvcJ:renk-tokyo.org/modules/news/article.php%3Fstoryid%3D141+%E5%B7%9D%E5%8F%A3%E5%A4%96%E5%8B%99%E5%A4%A7%E8%87%A3%E3%80%80%E5%B8%B0%E5%9B%BD%E8%80%85%E3%80%80%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E3%80%80%E5%8C%97%E6%9C%9D%E9%AE%AE&hl=ja&ct=clnk&cd=1&gl=jp
02年5月に起きた「瀋陽領事館駆け込み事件」で日本外務省の人権感覚が厳しく批判された。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%8B%E9%99%BD%E7%B7%8F%E9%A0%98%E4%BA%8B%E9%A4%A8%E5%8C%97%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E4%BA%BA%E4%BA%A1%E5%91%BD%E8%80%85%E9%A7%86%E3%81%91%E8%BE%BC%E3%81%BF%E4%BA%8B%E4%BB%B6
駆け込んだ5人は在日帰国者ではなかったため、脱北者は国際社会が保護すべき難民なのかという問題も提起された。
実は、脱北者は充分に「国連難民」の資格がある。
国連難民とは、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人だ。
北朝鮮が人民を迫害する体制であることは、毎年人権ランキングで最下位になることで知られているから。脱北者がすぐに難民とみなされてもよいようなものだが、中国はUNHCR国連難民高等弁務官事務所)が関与するのを拒否しているため、難民認定ができない。難民認定されれば、保護された国で「合法的に過ごしている外国人と同じか、多くの場合にはその国の国民と同じ程度の自由」を保障されるから安全である。ところが中国は、彼らを不法越境者として摘発しては北朝鮮に強制送還している。それどころか、人道問題として脱北者を救援する外国NGOまで弾圧している。
02年11月には、大連で「北朝鮮難民救援基金」の加藤博事務局長が中国公安によって拘束され何日も椅子に縛り付けられて尋問された。03年8月には上海で「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の山田文明代表(当時)が脱北した元在日の家族や支援の韓国人とともに拘束され一ヶ月間拘置される事件があった。同年11月にはベトナム国境に近い南寧で、「北朝鮮難民救援基金」の野口孝行氏が拘束され実刑判決を受け、釈放されるまで9ヶ月も抑留された。
中国は、北朝鮮工作員が、中国国内で脱北者や韓国人を拉致することまで黙認している。
一方で、脱北者は経済移民であって難民ではないという反論がある。北朝鮮で喰っていけずに中国に出稼ぎに来ているだけだというのだ。たしかに、直接の脱北理由が、自分と家族への迫害ではなく、生活苦という場合がある。しかし、こういう人も難民とみなすことができるのである。
というのは、北朝鮮では、許可なく国外に出れば刑法47条で国家反逆罪とみなされるからだ。どんな理由であれ、無断で国境を出れば国家反逆者として迫害の危険が生じる。つまり、国境の川を越えた瞬間に「難民」となると解釈してよい。
実際、中国からはるばるモンゴル、ロシア、東南アジアにまで逃れて保護される脱北者たちが、中国以外の国では国連難民に認定されているのである。
「ノン・ルフルマンの原則」というのがある。「迫害にあう可能性がある国へ強制的に送還すること」を禁じるものだ。「ノン・ルフルマンの原則は、慣習国際法であり、すべての国を拘束するものです。したがって、どんな政府もそのような状況にある人を強制退去させるべきではありません。」http://www.unhcr.or.jp/protect/treaty/qa.html#05
中国はこれに明確に違反している。
国連の常任理事国ともあろうものが、こんなことでいいのか。
脱北者の問題とは、北朝鮮の人権の問題であると同時に、中国問題でもあるのだ。
(つづく)