3月期決算で、テレビ朝日とテレビ東京が赤字になった。TBSはホールディングスとしては黒字だが、放送事業は赤字。テレビ朝日、TBSとも創業以来の事態だという。CM売り上げが激減しているようだ。民放はCMを収入として成り立っているから、CMの将来がどうなるかに今焦点が当たっている。テレビは大丈夫なのか。
「テレビはなくなるか、もしくは、放送局の数は非常に少なくなる」。
『放送レポート』という業界紙の7月号「テレビCMの未来」という特集を組み、マーケティング・プランナーの谷村智康氏がこんな悲観的な未来を描いている。
谷村氏によれば、まずクライアントの企業が減少した。都市銀行は13行から4〜5行になり、事業の統廃合で携帯電話からサンヨーや三菱電機が撤退したように商品も減った。いま話題のキリンとサントリーの統合などもこの趨勢に添うものだろう。
次に、消費者も減ってきたうえ、嗜好が細分化した。1千万人にCMを流しても、1千万人が同時に買う商品はもうない。
そして重要なのは、費用対効果の観点から企業が広告を削減したことだ。トヨタが広告費を年間3割削ると決めたのはリーマン・ショックの前で、事業不振が原因ではなかった。マーケティング全体を考えたときにマス広告は3割削っても大丈夫という自信があったからだという。
つまり、テレビCMが売れないのは単に不況のせいではなく、景気がよくなってもテレビには戻ってこないという。深刻な話である。
テレビCMをやっているから商品を買うという人は減った。最終的には商品の質と値段を比較できる店頭がより影響力を持つ。家電量販店での「ポイント還元10%」などの原資は、実はメーカーの広告費から出ているという。企業は広告費を削って、店頭の還元に回すほうが効果的だと判断しているわけだ。
一人暮らしを始める若者が、テレビを部屋に置かないようになっているという。放送時間に合わせて部屋に戻って観る必要はない、しかし、スポーツ中継などは観たいからワンセグチューナー付きの携帯電話を買うのだという。ワンセグの携帯を持っていても、それでテレビ番組を観ることのない私とは感覚が違う。さらにワンセグ携帯には録画機能まで付いている。
「放送の優位性は、動画を独占的に扱えること」で、「テレビ局の放送時間に視聴者を釘付けにできるところに」あった。しかし、今は地上波だけでなく、BSもCSもあるうえ、録画再生されて観るのも普通になった。
視聴率とは、そもそも「放送する時間以外には見せない」ということを前提にしていた。放送時間にリアルタイムで見ない、「見たいときに、見やすいツールで見る」という視聴者の意向に民放テレビのビジネスモデルは合わなくなってきているという。
「テレビはかつては圧倒的に強いメディアでしたが、これからは時代の求める条件に合致するように、放送というサービスを再編していかないと厳しいでしょう」と谷村氏は言う。
いま、番組予算が削られたり、番組自体が打ち切りになったりしていることが制作プロダクションに深刻な経営難を招いている。冬の時代に突入したのは実感していたが、ひょっとしたら、もう春は来ないのではないかと考えさせられた。