持続可能な世界モデルを目指す町長2

takase222008-05-21


去年夏、私は家族と上勝町を訪れた。徳島市からバスで2時間もいくとこの町の棚田が美しく広がっているのが見える。
ゴミステーションにも実際に行ってみた。ほとんど年中無休だから、ある意味便利ではあるが、交通の不便な遠くの集落から持ってくるのは大変だ。車を運転しないお年寄りはどうするのかと聞くと、ゴミ出しを手助けするボランティアが車を出してくれるという。不便なところには助け合いが生まれるのだ。
写真は、ゴミステーションの新聞と段ボールの山の前で、村外から見学に来ていた子どもたちに説明する松岡夏子さん。26歳の美人である。
彼女、実は神戸出身で、デンマークに留学して環境問題を勉強した人だ。上勝町の哲学に惹かれてここに住み、ゼロ・ウェイストの実現のためのNPO法人「ゼロ・ウェイスト・アカデミー」を立ち上げてその責任者になっている。外国からの見学者を案内もする。このように、意気に感じて移住してくる若者たちがいるのは頼もしい。廃校になった小学校を補修して、外から移住してくる人たちのための賃貸事務所と住宅にしていた。
徳島県上勝町笠松和市町長は、近く本を出す。タイトルは『持続可能なまちは小さく、美しい―上勝町の挑戦』。私はこのゲラをいただいたのだが、日本の進むべき道はこれしかないと確信した。
今後、折に触れて書いていくが、きょうは笠松さんの構想力の大きさだけ紹介したい。本の第一章にはこう書かれている。
《そんな小さな町には、大きな目標があります。それは、二十二世紀を迎えるまでに持続可能な地域社会を実現すること。上勝町は持続不可能な現在の社会システムを持続可能なものに転換するという世界で最も大きな問題を、世界で最も早く実現させ、世界に誇れる町になりたいと考えているのです》
《今世紀末には世界のモデルとなる町に》するとぶち上げている。
これに対して、《日本には、将来どのような国にするという目標がありません。私たちを乗せた日本丸の船長である内閣総理大臣は、一億二千七百万人もの乗客を乗せているにもかかわらず、目的地も航路も決めてはいません。辿り着くべき目的地がないから、成り行き任せに船を走らせ、ただ大海を漂うしかありません》とばっさり切っている。そしてその批判はまことにもっともだ。
エコの町というと、ゴミ分別とかレジ袋を使わない運動とか「身の回りの」小さな活動を連想するが、この町はもっと根本的な持続可能性を目指している。それは住民を生き生きさせることにつながっている。
だから、地域をつぶす市町村合併には断固反対して、県内最小の町のまま。超高齢化の町にして県内でも老人医療費は最低に抑えている。逆にたぶん老人のパソコン使用率は日本でも最高レベルだろう。町の86%の家庭に光ファイバーを入れ、高齢者にパソコンの講習を行っている。さらに高齢者専用のキーボードと大型のトラックボールを開発、操作が簡単なブラウザを搭載したパソコンを提供している。
この町には、《世界のモデルとなる》という大きな目標も実現可能では、と思わせる底力がある。
来月出版予定の笠松さんの本『持続可能なまちは小さく、美しい―上勝町の挑戦』(学芸出版社)を一人でも多くの人に読んでほしい。