くまのプーさんとナチズム 1

北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の会長、三浦小太郎さんは、政治批評から音楽評まで幅広い文筆活動を行なっている。姜尚中氏の北朝鮮への幻想を鋭く批判した「偽善的平和主義を拒否する」は拉致問題脱北者に関わる人々に広く読まれて反響を呼んだものだ。http://renk-tokyo.org/modules/news/article.php?storyid=69
三浦さんは、文章を読むとお堅い人というイメージがあるが、実は大変なボヘミアンで、ときどきギョッとさせられる。数年前、ある脱北者の救援のため、彼に同行して中朝国境に行くことになった。成田空港で待っていると、2月というのにブレザー一枚でふらりと三浦さんが現れた。チェックインのためにカウンターの前に行った。
「三浦さん、飛行機に預ける荷物は?」と私が聞くと、「ありません」との答え。見ると、三浦さんが手に持っているのは小さな紙袋一つだけ。
「最低でも4〜5日は滞在しますよ。コートも着替えもなくていいんですか」
「ええ、私の大好きなドリトル先生は、手ぶらでどこへでも旅行したんですよ」
えっ、ドリトル先生だって?この人、いったい何を言ってるんだ?
あっけに取られる私に、三浦さんはドリトル先生の魅力を滔々と語るのだった。危険な旅行になるかも知れないと緊張気味だった私は、急に力が抜けてしまった。
世俗の塵とは無縁に見える三浦さんは、児童文学をこよなく愛している。4月に三浦さんと飲んだとき、彼は亡くなったばかりの児童文学者、石井桃子氏を話題に上げた。ドリトル先生とともに三浦さんが大好きなのは「くまのプーさん」で、これは石井氏が翻訳して日本に紹介したものだった。日本のキャラクター人気ランキングでは、「ハローキティ」や「ミッキーマウス」を抑えてトップなのがこの「くまのプーさん」だ。
三浦さんによると、「ドリトル先生」の著者のロフティングも、「くまのプーさん」の著者のミルンも、ヒトラーを強く批判することで共通していたという。三浦さんはある雑誌にこう書いている。
ドリトル先生シリーズは、《元々、動物の言葉が分かるお医者さんという主人公の発想自体が、戦争で負傷した兵士が手厚い介護を受けているというのに、輸送や戦場で多くの役割を果たしていた軍馬が、充分な手当てを受けることも無く苦しんでいる有り様から思いついたものだ。
ドリトル先生は随所で平和への愛を語り,戦争や差別を批判する。(略)第二世界大戦戦時下に書かれ、戦後に出版された最後の大作『ドリトル先生と秘密の湖』に、侵略主義の権化として現れるマシュツ王は、ヒトラーをモデルにしていた。ロフティングが常に平和と自由を愛し、動物たちを含む社会的弱者に暖かい目を向けていたこと、その視点からヒトラーに象徴されるナチズムを激しく批判していたことは、今読み返すと率直に伝わってくる》(三浦小太郎寄稿集http://www11.ocn.ne.jp/~rachi/miura.htm
そして、プーさんの著者、A.A.ミルンには、さらに感動的なドラマがあった。
(つづく)