幸せになりたい?

ときどき、瞬間を見つめるゲームをする。これは、目まぐるしく移りゆく自分の思い、感情を客観的に観察するという、ある種の修行なのだが、たまにこれを家族に向けてひんしゅくを買う。
テレビで若い歌手が歌っている。私はテレビ業界で仕事をしているが、最近の歌手やタレントをほとんど知らない。
「これ誰?」
スキマスイッチだよ。知らないなんて遅れてるよ!」
娘はファンらしく、怒ったように言う。
私はすかさず「いま、お前の心に、少しの怒りと優越感または自慢する気持ちが起こっただろう」と突っ込む。
こうして私は嫌がられる。
「そんなこと言うと、みんな嫌な気持ちになるじゃない。幸せになれないよ!」
娘は「幸せ」を最大の価値にしている。
娘が小学校のとき、先生に「将来なりたいものを書きなさい」という課題を出された。サッカー選手、ケーキ屋さん、花屋さん、デザイナー。さまざまな答えが出るなか、娘が書いた答えは・・・「幸せ」だった。こんな答えはクラスで一人だけだったという。
将来なりたいものは、幸せ・・・なるほどなあ。ウケを狙って他人と違った答えをしたのではなく、本当にそう思ったのだという。私は感心し、ちょっと尊敬した。小さい頃から「幸せ」を人生の目標にしてきた娘である。
私は娘に議論をふっかける。
幸せを唯一の目標にするのは賛成できないな。だってそれだと、不幸になったら生きているのが無意味になるんじゃないか。ところが人間は必ず不幸になる。必ず。それは避けられないんだ。
(つづく)