幸せの指標5−意味の世界2

takase222010-06-09

道端にホタルブクロが咲いていた。友人が先週末ホタル狩りに行ったと聞いたが、もうそんな季節なのか。今年はとくに時間の経つのがはやいなあ。
きのうの夕方、菅直人首相は、就任にあたっての記者会見を行った。
そこで冒頭にこう語った。
《私は政治の役割というのは国民が不幸になる要素、あるいは世界の人々が不幸になる要素をいかに少なくしていくのか、最小不幸の社会を作ることにあると考えております。もちろん大きな幸福を求めることは重要でありますが、それは例えば恋愛とか、あるいは自分の好きな絵を描くとか、そういうところにはあんまり政治が関与すべきではなくて、逆に貧困、あるいは戦争、そういったことをなくすることにこそ、政治が深く力を尽くすべきだとこのように考えているからであります》(毎日新聞
首相としての初会見を幸福の話から始めた。いまや「幸せ」が、政策目標の中心に据えられる時代なのだ。
さて、大井論文の続き。
《ヒトが、まわりにある無数の情報のうち、自分が受容できるものだけで「世界」を構築することは、さまざまな調査で確認できる。
例えば、「頭頚部がん患者」、「健康人」、「治る見込みのある整形外科の患者」の3群について、「全般的生活満足度(Life Satisfaction, LS)」、つまり生活にどれほど満足しているか、を計ったところ、平均点に差はなかった。これは、自分にとり「価値」ある個別「領域」が3群で違うことにかかわる。健康人は「健康」がLSに大きな意味を持つのに対し、がん患者の場合は「健康」という領域には重きを置かず、それ以外の「娯楽」、「介助」、「家庭生活」など多くの領域とLSが関係していた。
では、スラム住民、売春婦、路上生活者など、社会的に惨めな状態は、即不幸なのか。この3群のLSは、中立点が2のとき、平均1.93。不満の程度は想像よりはるかに軽い。うちスラム住民は、LSが2.23とかなり高めになる。社会的つながりが強いことが全般的満足度を押し上げているという》
そして、大井さんは論文をこうまとめている。
《要約すると、ヒトには、認知能力が衰えていても、高齢で種々の病気があっても、致死的病気があっても、貧困などの惨めな社会環境にいても、その実存条件においてそれなりの満足、幸せを保とうとする能力が備わっているらしい。ヒトには、環境から自分に都合のよい情報を選択的に取り出し、それなりに安定した「意味の世界」を紡ぐ能力が備わるからであろう。しかし、この能力は、家族や周囲との「快いつながり感」があるとき、もっともよく発揮されるようにみえる。日本で近年続く3万人を超す自殺は、社会的人間的つながりの衰退を反映しよう》
(つづく)