ウクライナは兵器・弾薬においても兵員数においてもロシアに対して劣勢な現状をなんとか変えようと、無人機(ドローン)など先端技術にもとづく兵器システムの開発を目指している。その中にはAIの軍事利用も含まれる。ウクライナはロシアの侵攻後、欧米の支援も受けてAI兵器を戦闘に本格投入し、「AI戦争の実験場」といわれている。
AIの軍事利用について『朝日新聞』が大きな特集を組んだ。
記事に「パランティア・テクノロジーズ」という米データ解析企業が登場する。この会社はイスラエル(テルアビブ)に2015年に事務所を解説、ハマスへの報復攻撃でイスラエル軍を本格支援した。また、ウクライナ(キーウ)にも事務所を構え、ウクライナ軍が同社のAIシステムを戦場で活用しているという。
この記事に、イスラエル軍のガザ侵攻でのAIの具体的な使用例が記され、そのあまりに危険な実態に身が震える思いがした。以下、少し長いが引用する。なお、これは私が以前、ガザに詳しいジャーナリストから聞いた話と完全に符合する。
《・・2019年、イスラエル軍はハマスの能力をそごうと新部署を創設。衛星情報や無人機映像、通信傍受、行動監視などで得た膨大なデータをAIで解析することで、ハマス幹部の居場所を突き止めるのが目的だ。
導入したAIツールについて、同軍のアビブ・コハビ前参謀総長は昨年6月、地元メディア「Ynet」のインタビューで、「AIの力を借りて膨大なデータを、人間より効果的かつ迅速に処理し、攻撃の標的に変換する機械だ」と説明した。
同氏はその効果について、諜報員などでは「1年に50カ所」程度だった標的探しが、AIツールの稼働で「1日に100カ所」の攻撃目標を洗い出せたとも明かした。
後に同軍が「ハブソラ(福音)」と名付けたAIツールは、攻撃目標を次々生み出すことから「標的工場」とも呼ばれた。同軍によれば、ハマスへの報復攻撃で約1ヵ月間で1万2千の「標的」を割り出し、ガザへの地上侵攻部隊にも提供された。
地域を破壊する大規模な空爆と民間人の犠牲の多さは、ハブソラ導入と無関係ではない、と欧米メディアは指摘する。
イスラエルの調査報道メディア「+972マガジン」は、軍がハマスやイスラム過激派の幹部だけでなく、若手メンバーまで狙い、民間の建物も対象に加えて熾烈な空爆を繰り返していると批判し、ハブソラを「大量殺戮工場」と呼ぶ。
民間人の犠牲が膨らむのは、AIの精度に問題があるのか、それとも民間人の犠牲もいとわない軍の方針のせいなのか。軍は昨年12月の発表で「できるだけ多くのハマスの軍事目標を攻撃する戦略に転換した」と、標的選別の正確さより被害の最大化を重視する立場を示唆している。
参謀長時代、「標的探し」でAIを本格導入したコハビ氏が、同軍のガザ侵攻前のインタビューで語ったことが興味深い。「AIは我々に非常に重大なリスクをもたらす。既に『魔神』は瓶から飛び出している」。そしてこう続けた。
「懸念するのは、ロボットが我々を支配することではなく、我々が自分たちの心がコントロールされていることに気がつかずに、AIに取って代わられてしまうことだ」(以下略)》
さまざまな情報を総合してハマスが潜んでいる「攻撃目標」を探る作業が、諜報員など人間がやると「1年に50カ所」程度だったという。その困難さから言えば、これでもすごいと思うが、AIツールでやると「1日に100カ所」もの攻撃目標をパパパッと提示するというのだ。そして今回のガザ侵攻では約1ヵ月間で1万2千!!の「標的」を割り出した。これではいくら攻撃してもしきれないし、殺戮対象のほとんどがハマスと無関係な人々になるのは当然だ。
連日のすさまじい殺戮はAIの示す膨大な「攻撃目標」を破壊しているからだろう。ガザがAIにコントロールされた未来の戦争図に見えてくる。