私がここにいるわけ その2①

 国連は、ガザの人口の4分の1が飢餓寸前の状況にあると警告し、実際に子どもたちが次々に餓死している。

 一刻もはやく食糧をはじめ支援物資を人々に手渡さなくてはならないのだが、先週には支援物資を積んだ車列に近づいた100人以上が命を奪われた。現場の人の証言ではイスラエル軍が発砲してきたという。どんな意図かは不明だが、結果として支援物資を受け取ることを妨害した。

 アメリカなどは、支援物資を空から投下しているが、人道支援団体は、この方法は需要の急増に応えるものではないという。

 ついにアメリカはガザの海岸に港・桟橋を造って海上の船から支援物資を運ぶと発表。これにより、食料、水、医薬品、一時的なシェルターなどを積んだ大型船が停泊できるようになり、パレスチナ人への人道支援は1日あたり「トラック数百台分増える」という。だが、埠頭の設置には「数週間」かかるそうで、このプロジェクトが成功するかどうかは分からない。アメリカがそんなことまでやるくらいなら、国連安保理の停戦決議に拒否権など使うなよと言いたい。

ガザ地区に海岸があることは意外に知られていないが、海水浴や釣りはガザの人々の主なレジャーの一つだ(BBCより)

 飢餓発生にもっとも責任があるのはもちろんイスラエルだ。停戦しなくとも、検問所からの物資搬入を増やせばいいだけなのに、それを人為的に止めているのだ

ワリード・アリ・シアム氏(左)Wikipediaより

 駐日パレスチナ常駐総代表部代表、ワリード・アリ・シアム氏のXには、イスラエル人がトラックの搬入を阻止する様子が動画で出ている。

ワリード氏のXより

 食料の権利に関する国連特別報告者のマイケル・ファクリ氏は7日、国連人権理事会で、イスラエルを「ガザのパレスチナ人に対して飢餓キャンペーン」を展開していると非難。各国に向けて、「ガザでの飢餓の映像は耐え難いが、あなたたちは何もしていない」と訴えた。

 イスラエルは意図的に支援物資をブロックして、銃弾によってだけではなく、飢餓という手段でもパレスチナ人を殺害しようとしている。言葉の真の意味でのジェノサイドだ。
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 私は、今の日本人の価値観が急激にニヒリズム、エゴイズム、刹那主義に傾いていくのを何とかしたいと思い、新たなコスモロジーを創造し広めるにはどうすればよいか模索してきた。いろんなところで講演したり、ワークショップに参加したりして工夫を重ねている。その一つの試みとして、いま私が参加する「サングラハ教育・心理研究所」の会報に「私がここにいるわけ~高校生に語るコスモロジーという記事を連載している。

 takase.hatenablog.jp

 

 以前、本ブログで第1回を紹介したが、今回は、私の意図が直截に書いてある第7回から抜粋して紹介しよう。

 

 宙くん、新年おめでとう。といっても元旦から能登半島の大地震で、大変なことになっているね。パレスチナのガザでは恐ろしい虐殺が止まらないし、いたたまれない気持ちになる。

 テレビをつけると落ちこんじゃうから、なるべくニュースは見ないようにしてるって?そうか、宙くん、繊細なとこあるからな。
人の不幸に心を痛めるのは人として大事なことなんだけど、感情移入しすぎて「うつ」にならないようにしよう。それって不幸な人を一人増やすだけで何の足しにもならないから。それより、宙くんができることを探してやってみたらどうかな。たとえば、お小遣いから寄付してみるとか。友だちとディズニーランドで遊ぶくらいのお金をさ。

《日本人が"やさしい“のは幻想?》

 寄付で思い出したんだけど、人助けの世界ランキングの話をしようか。イギリスの慈善団体が、過去一カ月に、①見知らぬ人を助けたか、②慈善活動に寄付をしたか、③ボランティア活動をしたかの3項目を世界各国で質問して、その回答を毎年ランク付けしている。「世界寄付指数」(World Giving Index)っていうんだけど、順位の高い方がより人助けをする国ということになる。宙くん、日本はどのあたりにくると思う?

 平和を愛するやさしい国民だから上位にくるって? たしかに、「地球にやさしい」とか「お肌にやさしい」とか、日本人、"やさしい“のが好きだよね。

 あのね、2023年版(調査は22年秋)のランキングでは、142カ国中139位。ガーン!ビリから4番目なんだ。世界には、内戦が続いてたり、飢死する人がいたりする国もある。明日のご飯を食べられるか分からない人が人助けするのは難しいよね。だから、比較的暮らしに余裕のある先進国の日本が、カンボジア(136位)やアフガニスタン(137位)より下の最下位すれすれって、すごく恥ずかしい。実は2021年度には、日本がほんとの最下位だったんだ。

 2010年以降のランキングをずっと見てったら、日本の順位がいちばん高くなったのは2012年。そう、その前年の2011年の3月に東日本大震災があった。宙くんは小さかったから覚えてないだろうけど、東北を助けようとたくさんのボランティアが被災地に入ったり、あっちこっちで寄付を募ったり、"絆“という言葉や「花は咲く」なんて復興ソングが広がったりして、日本が一丸となって「助け合おう」という雰囲気があった。調査はその年の10月、支援ムードが盛んだったころに行われた。で、日本のランキングはというと、145カ国中85位。あれだけ盛り上がっても、世界では下の方なんだ。これ見ると考えこんじゃうよ。

 ちなみに最近は6年連続でインドネシアが1位。豊かな先進国でもないのになんで? と興味をひかれるけど、その話はまた今度。

 ついでにもう一つ、宙くんをがっかりさせる調査結果があるんだ。アメリカのPew Research Centerという機関が、「政府は貧しい人々の面倒を見るべきか」という質問を世界47カ国でやったんだ。この質問に「同意する」、つまり面倒を見るべきだと答えた人の割合が、日本は59%で世界最下位だった。最も高かったのはスペインで96%。その他、イギリスが91%、中国は90%、韓国は87%だった。

 ということはね、さっきの結果と合わせると、日本人は、自分で他人を助けないだけでなく、貧しい人を政府が助けることにも4割以上が反対してるということになる。ひどいね。めっちゃ冷酷。ぼくもその日本人の一人として、ほんとに恥ずかしいよ。

 ぼくたちは、いまの自分たちのありようが"フツー”であたりまえと思っているけど、こうして他の文化圏や他の民族と比べることで、はじめて自分が何者かを知ることができる。結果、世界的に見たら、日本はぜんぜん"フツー“でもあたりまえでもなくて、とんでもなく心が荒れた国になっていることがわかる。認めたくないけどね。

 でも、よく考えてみると、思い当たることもある。こないだ定年退職した友だちをねぎらう集まりに行ったら、「おれたちは逃げ切れるよな」と言ってみんなで笑ってた。「逃げ切り世代」という言葉があるの、知ってる? 豊かな社会保障を受けながら、今後の財政危機による負担増大をこうむらなくて済む、ぼくたち70代から60代のことなんだけど、よく考えると自分勝手なひどい話だよね。若い世代に負担を押しつけて、自分たちだけ得をして逃げ切る。「あとは野となれ山となれ」と言ってるのと同じだろ。

(つづく)