ウクライナで意外に思ったこと、いくつか。
まず、ゼレンスキー大統領の評判が高くないのに驚いた。「国外ではもてはやされてるけど、汚職問題や経済では成果を出していない」と通訳君。彼は前回の大統領選ではゼレンスキーに投票したが、他にましな人物がいなかっただけ、と醒めている。前線近くの兵士に聞いても「いいとこもあればダメなとこもあって、まあ『そこそこ』かな」との答え。
ウクライナは汚職の蔓延で知られ、EUに加盟できない大きな理由になっている。「腐敗認識指数世界ランキング(2021年)」によると180カ国中、ウクライナは122位、ロシアは136位といい勝負。ただ、改善は著しく、22年版のウクライナの順位は116位、そして23年版は104位とぐんぐん順位を上げている。ちなみに23年のロシアの順位は141位と低迷し、差が開いている。
政治権力が財閥と大っぴらにつるんでいることもこの国の特徴だ。例えば「ロシェン」というチョコレート会社があってその製品を私も食べたが、これは元大統領のポロシェンコの会社(ポ「ロシェン」コ)で、彼自身が財閥の長である。
極論すればカネとコネの社会。微妙なテーマでも、しかるべき筋にお金を払えば取材OKになる。多くの国民は、エライさんたちはみな腐っていると見ているようで、政府への信頼度はかなり低い。
つまりこうなる。私たちは、国としてすばらしいからウクライナを支援するのではない。その国が汚職まみれであろうが、大統領に人気があろうがなかろうが、そこにいきなり武力で攻め込んで破壊と殺戮を繰り広げることはどんな理由があっても許されないということなのだ。ここをはっきりさせておきたい。
もう一つ、意外だったのが、いわゆる戦意高揚ムードの乏しさ。ロシアと違って、ここは大統領の写真も肖像も全くなく、道路に国旗が目立つくらい。音楽会や映画などの文化、娯楽は以前と変わりなく楽しまれている。空襲警報が鳴ってもカフェでくつろぐ人もショッピング中の人も全く動じない。日常生活がたんたんと送られている。「欲しがりません勝つまでは」ムードはまったくなし。
衰えたりとはいえ、かつては世界一の陸軍国といわれたロシアと存亡をかけて戦っているとは思えない平静さだ。インフレ率は去年が26%、今年が8.6%で、戦時中にしては落ち着いていると言っていいだろう。この社会にパニック的な要素は感じられない。それでいて祖国防衛にほとんどの国民が進んで参加しているのが日本人には理解しがたいのではないか。
つまり、ウクライナ国民は、政府の(腐った)エライさんから強いられて戦っているのではないということだ。日本では「正義の戦争などない」とする人も多いが、このあたりをどう考えればよいのか。
ウクライナの事態は、日本人が避けてきた「国を守る」ということを一から考えさせる。この問題はまたいずれ。
10月22日(日)の取材報告。きょうはドローン部隊について回った。「ドローン戦争」といわれるほど大きな役割を果すドローンの実態を取材してきた。
ドローン部隊の取材に出る前に、うちのアパートの近くで毎朝ひらかれているフリーマーケットをのでのぞいてみた。
戦争で家が損傷したり、失業したりした場合、行政からの補助は薄く、基本は「自己責任」だという。物乞いしたりゴミ箱をあさる高齢者、車のガラスを磨いてチップをもらう少年も見た。きれいごとでは済まない戦時下の生活がここにある。
つづく