戦地や紛争地の取材について。
私たちのような取材者は、取材される側、例えば軍の部隊にとっては負担であり、「おじゃま虫」でしかない。カメラが入るとなれば多少は掃除もして準備が必要だ。取材が始まればインタビューなどで人手も時間もとられる。その上、万が一の事態が起きれば、戦場のど素人である取材者は足手まといで自分たちの身の安全にもかかわる。
それでも取材を受け入れるのは、自分たちの大義を理解してもらい国際支援につなげるなどの政治的な狙いがあるからだ。BBCやCNNなど影響力のあるメディアが優先されるのは言うまでもない。
安田純平さんがシリアで誘拐されたとき、「なにも日本人が危険なところに行かなくたって、外国通信社の取材をもらえばいいじゃないか」という声が上がった。日本のテレビは近年、社員を危険地に送らないが、ウクライナの国防省や緊急事態庁が提供する前線の戦闘や地雷除去などの資料映像や国際的な配信映像を使ってとりあえずは放送ができる。しかし、本来は日本に暮らす人間としての問題意識で取材しなければならないはずだ。この続きはまたいずれ。
今回、私たちのようなメディアをもたないフリーランスが、通常は許されない取材ができている(特に南部戦線で)のは異例中の異例で、ありがたいことである。もっとも、汚職の蔓延するこの国では、しかるべきところにお金を払えば取材がOKになることも多い。私たちには縁のない話だが。
10月21日の取材報告。
宿泊地の東部ドネツク州クラマトルスク市からハルキウ州イジウムに行き、ロシア軍占領期に殺された市民が埋葬された集団墓地、ロシア軍が残した不発弾や地雷を探し処理する活動、ロシア軍に破壊されたダムなどを取材した。
イジウムの近郊のオスコールダムが破壊され決壊して貯水はカラになっていた。発電施設もやられて周辺住民への電力供給がいまも滞っている。ダムや原発などへの攻撃・破壊は国際人道法違反とされている。インフラ復旧が喫緊の課題で、ウクライナ緊急事態庁は地雷や不発弾の処理を急いでいた。
バタフライ(蝶)地雷という12cmの平べったい小さな地雷がある。これを踏んでも足指がもげるだけだが、苦痛を与え、治療のため医療資源と人員を使わせ社会に負担を強いる。そして障害者になった本人と周りの人々の戦意を削ぐ。殺すよりも物理的・心理的に大きなダメージを敵に与えるために考案されたという。この地雷はアフガニスタンでもソ連が大量にまいて、好奇心でいじった子どもたちが多数大けがを負った。
ロシア軍がいなくなっても、地雷や不発弾を除かなければ安心して暮らせないのだが、インフラ設備が優先なので、農地や森の処理はほとんど手つかずだ。
クラスター弾やバタフライ地雷など、人を苦しめる知恵は発達するが、それらを片付けるのに数えきれない年月がかかる。