日本人難民を北朝鮮から救った男


 死ぬ大事忘れるほどに秋澄めり (山梨県市川三郷町 笠井彰)

 秋の澄んだ空気に浸っていると、生死すら忘れてしまうほど。今朝の朝日俳壇の入選句より。

 イムジン渡河五歳の秋や今元気 (新宮市 中西洋)

 敗戦後の朝鮮半島での逃避行を詠んでいる。時はすでに秋、五歳の子どもが親に手を引かれてイムジン川を渡り、米軍統治下の南朝鮮にたどり着いた。多くの邦人が満州や半島北部からの逃避行で命を落としている。生死を分けた渡河だった。

イムジン河(2017年筆者撮影)

 この句で思い出したのが、月刊『文藝春秋』9月号の城内康信「日本人難民を北朝鮮から救った『神様』」だ。

 敗戦時、朝鮮半島にいた70万人の在留邦人が「難民」と化した。ソ連軍が北緯38度線で国境を封鎖したため、そのうち28万人が半島北部に閉じ込められる事態になった。彼らの生活状況は劣悪で、咸興(ハムン、日本海側の町)では、栄養失調、発疹チフスなどの感染症の蔓延で、1945年8月から翌年春にかけ6人に1人が命を落とすという悲惨さだった。

 そこに立ちあがった松村義士男(ぎしお)という34歳の民間人がいた。

 ソ連軍司令部に嘱託として潜り込んで情報を集め、「朝鮮共産党日本人部」などという看板を掲げるなどの奇計も駆使しながら、邦人を南に脱出させ、さらに日本に引揚げさせる計画を綿密に練って静かに実行した。

 正式な引き揚げが始まったのは46年の12月だったが、その時点で半島北部に残っていた日本人は8千人に過ぎなかった。あまりの少なさにソ連軍責任者が唖然としたという。つまりおよそ30万人をソ連軍にも把握されない形で南に送ってしまったのだ。松村は在留邦人から「神様」と呼ばれるほど、信頼と尊敬を集めていたという。

松村義士男(文藝春秋9月号より)

 この松村という人物がとてもおもしろい。筋金入りの左翼だったのだ。

 11年熊本県生まれ。32年、20歳のとき咸興の「チッソ」の前身の工場で朝鮮人共産主義者労働争議を起こして逮捕。36年には大阪で日本共産党の再建に加担したとして逮捕。その後、共産党の入党の誘いを断って再び朝鮮に渡っている。

 戦後は延岡で土建業を興し、67年、55歳で亡くなっている。

 名前のとおり義士だが、どういう人物だったのかもっと知りたくなる。城内さんはいま彼についての本を執筆中のようだから期して待とう。

 ユダヤ人にビザを発行して命を救った杉原千畝が知られるようになったのも近年になってのことだが、あの戦争のとき窮地にあった人々を救った多くの「神様」たちが、知られぬまま埋もれているのだろう。

 また、私たちは、ウクライナ難民を他人事として見がちだが、多くの日本人が難民になった時代があったことも忘れないようにしよう。
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 ついに「ADKアサツーDK)ホールディングス」の植野伸一社長までが逮捕された。

 アサツーといえば電通博報堂につぐ業界3位の企業。五輪をめぐる贈収賄事件は、いったいどこまで広がるのか。

 この問題にくわしい森功さん(ノンフィクション作家)によれば、事件の構図はこうだ。

 収賄構造の中心には「文教族」でスポーツ団体に力をもつ森喜朗元首相がいる。AOKI、KADOKAWAとも、高橋治之容疑者の仲介で森元首相と面会したが、この面会で五輪スポンサーになれると確信したので高橋容疑者に金を払っている。森元首相は、企業に金を出させる“決め手”の役割を担っていた。

 高橋容疑者の弟、高橋治則氏は、バブル期の狂乱を代表する人物。資産1兆円ともいわれた不動産会社イ・アイ・イ。インターナショナル社長で、後に金融機関への背任容疑で逮捕された。高橋容疑者は、この弟と二人三脚で、政治家やタレント、スポーツ界に人脈を築き、政界では安倍元首相の父親、晋太郎氏から清和会にも広がっていった。

 森元首相と高橋容疑者が関係を深めたのは2000年前後で、森元首相が親しくしていた電通成田豊社長に地元後援者の頼みを聞いてくれるよう依頼したことがきっかけだった。この時、電通側で対応したのが社長側近の高橋容疑者だった。

 ここから、森元首相電通、高橋容疑者が組んでスポーツイベントを仕掛ける蜜月が始まった。(赤旗日曜版より)

 この癒着構造は徹底して糾明してほしい。

とりあえず、これまでのところ。(TBSサンモニより)

 それにしても、東京五輪については、はやくも誘致段階からどす黒い金が動いていたことは分かっていた。また、実際の準備がはじまってからも、電通を主体にした運営体制が不可解なお金の流れを仕切っていることが内部から告発されていた。こうした“疑惑”に十分光が当てられなかったことによって、膨大な無駄、ひいては国力の減退を招いた。
五輪をめぐるマスコミの批判的報道が弱すぎた。五輪という国策を成功させたい政権への忖度が働いたためだろう。猛省を。

 世界で日本ほど五輪をありがたがる国はないそうだが、東京五輪でこれだけ痛い目を見たのに、2030年の冬季五輪をやろうなどと騒いでいる。札幌五輪、断固反対。

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 その一方で、さわやかなスポーツの話題。

 

 「スピードスケート・全日本距離別選手権」の女子500メートルで、小平奈緒(36)=相沢病院=が現役ラストレースで37秒49をマークし、大会8連覇、通算13度目の優勝を達成。すがすがしい笑顔でリンクに別れを告げた。

彼女、どんどんいい表情になっていると思う。(TBSサンモニより)

 彼女の生き方には品格があり、尊敬する。

https://takase.hatenablog.jp/entry/20191113

  レース後ー

 (記者)引退お疲れさまでしたで合っているか。

 「おめでとうの方がうれしい。私の歩みはまだまだ止まらないので。スケートリンクというフィールドを超えたところに飛び出していく、それが今日。元気よく飛び出して、たくさん失敗して、チャレンジして進みたい」

 今後の活動を見守りたい。