はじめにお知らせです。
ジャーナリストで参議院議員の有田芳生さんによる『北朝鮮 拉致問題~極秘文書から見える真実』(集英社新書)が今週発売になります。
2002年に帰国した5人の拉致被害者から政府が聞き取りを行った記録がある。これは「極秘文書」としてその存在を秘匿されてきた。今回、この文書をはじめて分析しつつ、なぜ20年も拉致問題が進展しないのかを解き明かしている。
私は本書の「解説」を担当している。「極秘文書」には、私も初めて知る北朝鮮のリアルな実態が記され、非常に興味深かった。また、今後の北朝鮮との交渉に利用できる材料もたくさんある。
ご関心ある方はぜひお読みください。
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2週間ほど前のEテレ「ハートネットTV」で「戦禍のウクライナ ろう者たちのいま」を観た。
今まで私もウクライナの障害者のことは視野になく、まさに「盲点」だったなと気づかされた。
ろう者は空襲警報の音は聞こえず、屋内だと窓や壁の振動で、屋外では人が走ったり鳥が飛び始めたりすることで爆発を知るという。また夜は光で爆撃を感じていたそうだ。避難先でも十分な支援が受けられず、健常者の何倍も苦労しているようだ。
彼らの困難を理解する日本のろう者たちが、以前知り合ったウクライナのろう者2人を受け入れた。
「ウクライナろう者避難民支援チーム」の吹野昌幸さん(ご自身もろう者)はウクライナのろう者とは国際手話でコミュニケーションをとる。国によって手話が全く異なるからだ。(国際手話が使えない場合は、両国の手話を理解できる人が「通訳」する)
(吹野さん―群馬県みどり市在住)
「深く話してみると、まだ傷も残っていて簡単なことではないと思いました。ただ、日本に来た以上、時間をかけてケアしていきたいと思っています。幸い、ウクライナのろう者の皆さんは日本が大好きで、日本の文化を採り込んでいるところです。そういう姿を見てほっとしています。心も体も少しずつ戻ってくるのではと期待しています。まずは地域の社会になじんで交流してもらうのが先決かなと思います。そのときのために日本手話を教えておきたいです。また、それが落ち着いたら日本のいろいろなところに連れていって、それでどこに行っても自立して行動できるように支援をして、全て落ち着いたら仕事探しかなと思っています。」(吹野さん)
当面の心の癒しから将来の日本での仕事さがしまでしっかりした展望をもってウクライナのろう者を受け入れていることに感銘を受けた。すばらしい。
こういう人たちを知ると、日本もまだ捨てたものではないと思える。
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8日の参議院の「北朝鮮による拉致問題に関する特別委員会」には、拉致被害者家族会の飯塚耕一郎事務局長と特定失踪者家族会の竹下珠路事務局長が参考人に招かれた。
飯塚さんはかたくなに、被害者全員の即時一括帰国以外の解決は認められないと語った。「我々には時間がないのです。一部の被害者だけ返してもらい、段階的にやる方が現実的ではないかというコメントもありますが、そのような考えには賛同致しかねます。」と。
有田芳生委員は、竹下さんが所属している「特定失踪者調査会」の荒木和博代表が「何年も前から、『一人からでも取り戻すべきだ』という立場」であることを指摘したうえで、竹下さんの考えを問うた。
【竹下珠路参考人】
「特定失踪者家族会の事務局長という立場ではなく、古川典子の姉という個人の立場で申し上げさせていただきますと、もうほんとにみなさん、命に時間がないんです。だから、わかるところから、871人を全部というのは正直物理的に大丈夫なのだろうかという心配がありますから、見つかったところからでもこじ開けていく必要があるのではないかと竹下個人としては思っております。」
飯塚さんは「時間がないから」全員即時一括帰国をと言い、竹下さんは同じく「時間がないから」一人からでも「こじ開けていく」とはっきり異なる立場を述べている。
有田さんは、竹下さんの答えを受けて、ストックホルム合意の前に北朝鮮が日本側に二人の拉致被害者の存在を知らせていたことについてこう述べた。
「今から20年前の2002年の小泉訪朝で、10月15日に5人の生存者がお帰りになりました。で、日本政府の聞き取りがありましたけれども、私それを見ているとやはり私たちがそれまで知らなかったいろんな北朝鮮側の機微、情報というのが伝わってくるんですよね。それが日本の外交でどこまでうまく使われたんだろうかと疑問を持っているんですけれども。
先ほど具体的に言いましたけれども、田中実さんという方が本当に生存されているならば、日本政府がその方にお話を聞いて、日本に帰ってこないって言ってもですよ、そこからいろんな情報が入って、いろんなつながりが出てくる可能性があると思うんです。
これは横田滋さんがいつもおっしゃっていたんだけれども、「とにかく動くことだ」と、とにかく動けばそこから何かがひらけていくと、私はそういう考えだから、田中実さんの生存あるいは特定失踪者の金田龍光さんも、日本政府に生存していると北朝鮮側は伝達してきたわけですから、そこから次の穴をあけていくのは大事だと思うんです。」
横田滋さんは、「救う会」に表立って逆らうことはなかったけれども、本心は全員の即時一括帰国よりむしろ「一人づつでもこじ開ける」ことを政府に望んでいた。
横田早紀江さんは、被害者家族に従いますと忠義だてする政治家たちに辟易してこう言っていたものだ。
「『拉致問題で何をしたらいいか、おっしゃってください。その通りに一生懸命やりますから』と言われるのですが、何をしたらいいかを考えるのが政治家じゃないですか。それに必ず『がんばってください』と激励されますが、私たちの方が政治家の先生にがんばってと言いたいです」。
「救う会」の作った路線を「家族会」の名で出し、それを政治家が「鵜呑み」にする。そして何も進めないという現状。この中でもっとも罪深いのは政治家である。
「家族会」という利害関係者の名で出された要請であっても、場合によってはそれに反する方針を立てて実現していかなくてはならない。
この20年成果がないことの責任は総理大臣に帰されるべきで、歴代総理が「拉致問題を最重要課題とする」との決まり文句を繰り返すのはもう聞きたくない。行動で示してほしい。
竹下さんは、ある委員の「今何が必要とお考えか」との質問に「一言でいわせていただければ、総理の本気度、行動力以外にはないのではないかと思っております」ときっぱり言い切った。同感だ。
とりあえず、北朝鮮で生存しているという拉致被害者、田中実さんと金田龍光さんそとその家族に会って本人確認し、保護・救出の手を差し伸べることが急務である。
総理の本気度を注目している。
(つづく)