なぜ政府は2人の拉致被害者を見捨てるのか?(5)

 「どうしたら北朝鮮を解放できるか?」

 これは、28日に開かれた「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」(守る会)の特別講演会のテーマで、講師はデイリーNKジャパン編集長の高英起(コウヨンギ)さん

高英起さん。スクリーンで「インサイド・ノースコリア」も上映された(28日)

 高英起さんは、数々の先駆的な人権活動で知られる。
 1993年、李英和さん(関西大学教授)とともにRENK(救え! 北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク)を創設。このRENKこそ、日本における北朝鮮人権問題に関する活動組織の草分けで、その後、94年に「守る会」、97年に「北朝鮮難民救援基金」の発足へとつながっていく。

 高さんは97年以降、中朝国境から北朝鮮の実態を発信しはじめ、2002年にRENKが発表した隠し撮り動画インサイド・ノースコリア」は、飢餓に苦しむ「コッチェビ」(浮浪児)の衝撃的な映像によって、北朝鮮の人権状況への関心を劇的に高めた。

 講演会で高さんはオフレコ情報が満載の刺激的な話を聴かせてくれたが、そのなかで金正恩体制が危機にあるのかどうかについても語っている。

 高さんは金正恩体制のリスクとして①健康、②出自(母親の高英姫が在日)、③人権問題、④コロナ問題をあげ、それぞれ分析した結果、当面大きなほころびは見いだせないという結論になったという。

 あれだけ非人道的な統治を続ける金正恩体制が危機に瀕していないというのは、倫理的には受け入れがたいが、私も高さんの評価に同意する。すくなくとも「当面」は北朝鮮の体制に激震はなさそうだ。

 拉致問題は、この金正恩体制を相手に外交で進展をはかるしかない。

 

 私は北朝鮮の体制をもっと脆弱なものと見ていた時期があった。

 とくに2006年、アメリカの金融制裁が発動されたときには、もう一押しで当時の金正日体制は倒れるのではないかと思い、アメリカの「強硬派」に期待した。

 06年末に出版した拙著『金正日「闇ドル帝国」の壊死』(光文社)のまえがきには、金融制裁は「金正日体制に致命的な打撃を与えている。ミサイルを乱射し、核実験に踏み切ったのは壊死寸前の金正日体制の断末魔なのだ」とまで書いている。

出版直後の07年4月、マカオの「バンコデルタアジア」に凍結されていた北朝鮮の資金が解除され、私の「期待」は崩れ去った。この本、重信房子北朝鮮の偽ドル札作戦の関係など、おもしろいディテールはたくさんもりこんである

 

 北朝鮮全体主義体制についての当時の私の見方は甘かったと、反省をこめてここで記しておく。

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 拉致問題について進展が見られないのはなぜか。

 日本側の要因について言えば、「全ての拉致被害者の即時全員一括帰国」以外は受け入れるべきでないなどの「家族会」と「救う会」の要求が、そのまま政府の方針になっていて、まともな外交が麻痺していることだ。

 「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)は、97年3月結成された家族会を支援するために生まれた各地の救出組織が、98年4月に集まってできた。去年4月現在、32都道府県、1市、1年組織がある。(HPより)

 大衆組織なのだが、実際は強い政治的志向がある。それは国民集会の会場で、憲法9条が諸悪の根源、日本は核武装すべしといった言説が飛び交うのを見ればわかる。

 私が集会に誘った知り合いたちはみな、「もう次から出たくない」と運動から去って行った。明らかなヘイト集団までもが運動に加わってきて、故横田滋さんが苦言を呈したこともあった。

「外務省の入り口で座り込みをしていて(北朝鮮へのコメ支援に反対して)、出入りの市民にビラを渡そうとしたら受け取らない人がいて、『オマエ、それでも日本人か!』なんて言う。」

「去年(2011年)の6月だったか、東京でのデモ行進で、私たちの知らない団体が参加していて、『在日朝鮮人東京湾へ放り込め!』なんて怒鳴っていてテレビのニュースでも映されていました。」

「勝手なことを言っているのに、一緒に横で歩いている救う会の役員が止めないんだから。」

「自分たちの考え方と違う人を許さないという姿勢は、本当によくない」

横田滋さんの発言『めぐみへの遺言』幻冬舎P145~146)

 雰囲気は分かってもらえると思うが、このいわゆる対北朝鮮「強硬論」の「救う会」が、やはり「強硬論」で人気がでて首相になった安倍晋三氏と蜜月関係になったのは見やすい道理だ。

 「救う会」と「家族会」は、集会の開催、街頭署名などの諸活動、政府要人へのロビー活動などを一体となって行っている。そして拉致問題についての政策提言も一緒に行っている。

 「救う会」が政治的主張をもって活動するのは、拉致問題の解決にとって良いことかどうかはさておき、民間団体としては自由である。

 しかし、拉致被害者の家族の互助組織である「家族会」が、「救う会」と一体になって特定の政治的主張を発し、北朝鮮がこういう態度をとったら制裁せよなどと具体的な政策提言をするのは、会の趣旨からしてやめるべきだと思う。

 かつて「家族会」の事務局長をつとめていた蓮池透氏(拉致被害者蓮池薫さんの兄)は会を離れ、「家族会が互助会から圧力団体・政治団体へと変化してしまい、意見の多様性を失った」と振り返る。

 「家族会」と「救う会」が一体の関係になるには、ある歴史的背景があった。

(つづく)