金賢姫の「北朝鮮の意思を尊重」発言1

takase222010-07-21

金賢姫工作員が、きのう軽井沢の鳩山家別荘に入って以来、大報道が続いている。
この来日については、さまざまな立場からの意見があるだろう。
政府としては、これだけ大きな話題を作って拉致問題に関心を向けることができたと評価するかもしれない。きょうの面会の前に横田早紀江さんは、「やっときょう、歴史的に大事な方とお目にかかれるところまで来たんだと、感慨無量な思いをしています」と語っていた。これまでの日本と韓国、北朝鮮の関係を振り返ると、あの大韓航空機事件の金賢姫が来日する時が来たということには、私も感慨深いものがある。
ただ、拉致問題を含む北朝鮮の人権問題に関係するNGOなど運動の現場からは、おおむね強い批判が寄せられている。韓国と外交折衝して、超法規的措置をとって入国させるという大事業にしては、あまりに実質的な効果のないキャンペーンだというのである。
こないだ紹介した三浦小太郎論文のように、今回の来日目的を直接的に「拉致問題の進展」にせずに、北朝鮮のテロ体質の糾弾にすればよかったのにと思う。
韓国の立場から見ても、今回、金賢姫訪日を許可したうらには、哨戒艦「天安」撃沈事件で対北朝鮮の共同歩調を進めたい意図があるのだから、テロリズム糾弾はぴったりはまる。それなら、韓国の世論からも、115人を殺したテロ犯が日本で英雄扱いされることへの批判など出なかっただろう。
今回、日本の若い人たちの中には「スパイが飛行機を爆破するなんて、映画みたいな事件があったんですね!」とKAL機爆破事件を初めて知った人が多い。彼らに、「北朝鮮問題」が、拉致された少数の不幸な人の話ではすまないことを知らしめるよい機会にもなったはずだ。
拉致問題の解決に寄与する」という枠組みで呼ぶから、テレビも新聞も、拉致に関する「新たな証言」が出るかどうかという一点で報道している。拉致に限っていえば、それはないだろう。とすれば、最後には、結局、拉致問題を前進させる成果はありませんでしたと総括されるに決まっている。
ところで、ひとつ、気になるニュースがあった。
20日金賢姫工作員田口八重子さんの長男、飯塚耕一郎さんと会った。そこで金賢姫は、北朝鮮との交渉について「北朝鮮の意思を尊重した上で、プライドを傷つけないよう話をしていかないと解決にはつながらない」などと考えを語ったという。(テレビ朝日
これを受けて、スタジオでは、専門家とコメンテーターの間で、日本政府は圧力ではなくて金正日との対話を重視すべしというやり取りがなされた。
将軍様が殺したいほど憎む「裏切り者」の金賢姫が、国賓級の扱いをされて来日し、しかも元総理の別荘で拉致被害者家族と面会していること自体、彼のプライドを最も傷つける行為だと思うのだが・・。
金賢姫のこれまでの証言を見る限り、彼女は、自分に工作員として大量殺人に手を染めさせた金正日体制の非道さに憤り、北朝鮮民主化され金正日体制が転覆されることを強く望んでいるはずである。
それなのになぜ、「北朝鮮の意思を尊重した上で、プライドを傷つけないよう」に、などというのか。
北朝鮮全体主義体制の中で生まれ育った人にとっては、あの体制が他のものに替わるなどということが想像できないのだろう。あの体制が続くことを前提に、「人質」である拉致被害者を取り戻すには、将軍様の「好意」に期待するしかないと思ったのではないか。
おそらく金賢姫のこの発言は、今後、「北朝鮮をよく知る元工作員が言うのであるから、日本政府は貴重なアドバイスとして受け止めなさい」というふうに使われるに違いない。
拡大解釈されると、太陽政策時の韓国のように、北朝鮮を「刺激」することを極力やめようということになりかねない。国内でも朝鮮総連への正当な批判まで抑制されたりしないかと心配になる。
(つづく)