ミャンマー統一政府の承認は先送りに

 とうとうミャンマーで、民主派勢力が武闘を宣言した。

 今月7日、アウンサンスーチー氏を支持する民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」が、人々を防衛するためとして国軍と戦闘に入ることを宣言し、全国での蜂起を呼び掛けた。

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NUGのドゥワ・ラシー・ラ大統領代行がFBを通じて緊急演説をライブ配信。D-Dayを宣言した。D-Dayとは、第二次大戦中、連合軍が反撃を開始したノルマンディー上陸作戦を指す。

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 国軍と内戦を続けてきた少数民族武装組織には「直ちに(国軍を)攻撃せよ」と呼びかけた。市民には不要な移動を避け、食料や薬を確保するよう求めたうえで、「人々の力で独裁を攻撃し、廃止せよ」と訴えた。一方で、国軍に任命された行政官には「直ちにその地位を離れるように」と警告した。朝日新聞9月8日朝刊

 NUGはすでに5月に自衛のための武装組織「国民防衛隊(PDF)」を設立し、一部の市民が武装闘争を始めていた。今回の武闘宣言で状況がどう変わるかは見通せない。

 国軍がNUGをテロ組織として対話を拒否し、一方的に非武装の市民を殺害し、拘束して虐待することが続いている。そして、この状況を国際社会も変えられずにいる。議会は閉じられ、自由な言論もメディアもない。
 追いつめられた民主勢力に残された手段としては武闘しかないではないか、という理屈はわかる。

 しかし、これが市民の犠牲をさらに大きく増やすのではないか。「どっちもどっち」と見られて、NUGが国際的に承認されることの阻害要因になったりしないか。アウンサンスーチー氏はどう考えるか、「あくまで平和的手段で」という原則だったのではないか。吉とでるか、凶とでるか。

 今回の戦闘宣言で、さらに猶予はなくなった。国際社会は一刻もはやく、国軍の暴力を強く抑止するよう動くべきだ。

 新会期に入った国連では、ミャンマーアフガニスタンの政府の扱いに注目が集まっていたが・・・

《国連総会(193カ国)は14日、1年間の新会期に入った。各国首脳らの一般討論演説がある「ハイレベルウイーク」は、21~27日の日程で行われる。焦点の一つが、国軍がクーデターで実権を掌握したミャンマーを代表する国連大使は誰になるかだ。軍政が任命する候補か、民主派が求める現職か。国際社会の立場が割れる中、ハイレベルウイーク中の混乱を避けるために国連総会は結論を当面先延ばしする見通しだ。

 「(誰が代表かを審査する)信任状委員会の作業について予断は避けたい。(国際社会の)団結した努力によってのみ解決できる」。14日に新たな国連総会議長に就任したモルディブのアブドラ・シャヒド外相は同日、米ニューヨークの国連本部で記者団にそう語り、国連大使認定の見通しについて明言を避けた。

 現在の国連大使アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)に任命されたチョーモートゥン氏だ。2月下旬の国連総会の会合で国軍を公然と非難し、反独裁を意味する3本指を掲げた。国軍側は解任を発表したが、民主派による「国民統一政府(NUG)」が推す国連大使として、職にとどまっている。一方、AP通信によると、国軍側は元軍幹部のアウントゥレイン氏を任命すると国連側に通知している。

 ミャンマーの一般討論演説は27日に予定されているが、国軍側と民主派側の双方の代表が登場し、互いの正当性を主張して紛糾することも懸念されていた。ただ米誌フォーリン・ポリシーによると、米国と、国軍とも関係を持つ中国は、水面下の交渉で国軍側による演説は認めないことで合意。チョーモートゥン氏もハイレベルウイーク中は国軍への激しい批判を控えるという。

 シンクタンク「国際危機グループ」の国連担当部長、リチャード・ゴーワン氏は毎日新聞の取材に「軍政が『自分たちこそ正当な統治者だ』と証明するために、ハイレベルウイークを舞台として使えなくなるのは米国や同調する国にとって大きな利点だ」と指摘。一方、中国は多くの加盟国の中で国軍非難を避けている少数派だと自認しており「中国もハイレベルウイークでのみっともない論争を避けることができる」と語る。

 各国の国連大使は、毎年9月に始まる国連総会の会期ごとに、9人の委員からなる信任状委員会で審査される。通常は形式的なものだ。ただ誰が代表なのかについて異論が出た場合には、委員会の勧告を受けて国連総会が最終決定するまで現職の大使がその座を維持すると総会規則に定められている。

 国連外交筋によると、信任状委員会は10月か11月ごろに会合を開くまで、結論を出さない方針だといい、チョーモートゥン氏が国連大使に当面とどまる見通しという。国連外交筋は「既成事実化する軍政の権力掌握をひっくり返す妙案がない中、結論を出さずにいまの曖昧な状態を続けるしかない」と語る。

 国連加盟国の多くは国軍の政権奪取を批判。一方で、中露や東南アジア諸国連合ASEAN)は内政不干渉の立場を強調し、対応は割れている。国連大使を決めれば事実上、いずれかの政府の正当性を認めることになるが、別の国連外交筋は「国連憲章には(人権など)加盟国が守らなければならない『国連の価値観』がある。だが、軍政にはその価値観を守るという姿勢は見えない」とクギを刺した。

 一方、アフガニスタンで政権を握ったイスラム主義組織タリバンからは、誰を国連大使に任命するかの信任状は提出されていない。現在は崩壊したガニ政権に任命されたイサクザイ氏が国連大使を務めている。

 タリバンが発表した暫定政権は少数派や女性も含んだ「包括的な政権」と言えず、欧米諸国を中心に懸念が強まっている。今後、タリバン側から別の人物を国連大使に任命すると通告があっても、ミャンマーと同様に結論を先送りする可能性が高い。【ニューヨーク隅俊之】》(毎日新聞より)

 決定を先延ばしにして、時間が過ぎていく。

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日本をふくむ国際社会に、国民統一政府(NUG)を認めよと訴える在日ミャンマー人たち NHKニュースより