中村哲医師とアフガン3

takase222009-08-29

《お陰さまをもちまして、東京11区の選挙戦は終了しました。メディアでは苦戦とも書かれていますが、実際に街頭に出ると若いボランティアの面々が、「これで当選できなかったら人間不信に陥ります」というほどの圧倒的な反応がありました。ご声援ありがとうございました!》(有田芳生さんの支援サイト「誰も通らない裏道」)
きょうで選挙戦が終わった。有田さん、ごくろうさまでした。
週刊誌、新聞などではやや劣勢と書かれていたが、私は、投票率が上がって僅差で当選するのでは、と期待している。
ところで、今回、最高裁判事の国民審査も行なわれるが、この中に竹内行夫氏がいる。この人は小泉がブッシュからイラクへの派兵を要請されたとき「背中を押した」外務次官だったという。最高裁判事って外務省の天下り先にもなっているのか!
さて、アフガンでなぜタリバンが支持されるのか。アフガンで20年以上活動している中村哲医師によると、タリバンの実態は、これまで報じられたものとは違うようだ。
アフガンの混乱は1973年、クーデターで王制が倒され共和制になったときからはじまる。78年今度は左翼青年将校のクーデターが起き、イスラム主義者を弾圧して全土に反乱が広がった。政権内部の党派闘争も激化したのを見てソ連は介入を決め、79年12月アフガンに侵攻した。農村共同体は封建制の温床だとして農村解体が行なわれたり、かなり乱暴な政策が採られたという。
アフガンの農民はみな武装しており、各地でソ連=政府軍に執拗に抵抗した。84年、アメリカは「武器支援法」を可決、外国からの支援がはじまる。CIA、パキスタンアラブ諸国から支援が流入し、「義勇軍」が組織され、自然発生的な抵抗は諸党派で色分けされるようになった。この中からあの「アルカイダ」が誕生するのである。
諸党派が分裂抗争を繰り返し、伝統的な農村共同体も秩序がゆるんでいく。89年にはソ連軍が撤退、92年ナジブラ共産政権が倒れると、アメリカなどから支援されていた諸政治勢力が権力闘争を激化させ治安が悪化していった。そこに急激に勃興し、割拠状態を収めて全土の9割を支配したのがタリバンだった。タリバンは「神学生」を意味し、アフガン主流民族のパシュトゥン族の若い神学生で、パキスタン情報部やCIA、サウジアラビアまで結成に関わっていた。
地縁血縁を中心とするパシュトゥン人社会で彼らが支持される土壌があった。権力闘争に明け暮れる旧支配勢力への反発も急速に支持をのばす要因だった。支持層の中核は生真面目な農民たちだったという。タリバンについて中村さんはこう書いている。
タリバーンアルカイダとの結びつきは、同床異夢であって、もともと両者の体質は異なるものがあった。「国際イスラム主義」の世界制覇を唱えるアルカイダに対して、タリバーンの諸政策は「攘夷」を掲げる「アフガン=パシュトゥン国粋主義」に近いもので、その構成員も雑多であった。わずか二万人足らずの軍勢が、短期間に国土の大半を支配できた秘訣はここにあった。概して彼らの方法は、地域の伝統的な自治組織(ジルガ=長老会)と政治交渉を重ね、地域の治安維持と綱紀粛正を約束し、慣習法による自治を保障、合意が成立すると兵力を進駐させるものであった。》(『医者、用水路を拓く』)
この支配方法は、北朝鮮全体主義ともミャンマーの軍事政権とも全く異なっている。共産主義体制のように、トップを失ってピラミッド型支配がガラガラと崩れるというわけではないのだ。
米軍が、タリバンのいる村を空爆したということは、つまり普通の村の農民を殺し、寡婦や孤児を増やし、生活を破壊したということである。中村さんの活動する地域でも反米意識が強まり、治安が著しく悪化したという。

きょうTBSの「報道特集」で、旧知のジャーナリスト、遠藤正雄さんによるアフガン報告を放送していた。日本からの資金が警官の給与になっていて、一人の警官が今のアフガンにはまともな職がなければ「人殺しか、麻薬の売人か、泥棒になるしかない」と言った言葉が印象的だった。麻薬栽培が爆発的に増え、その取り引きがGDPの半分くらいになっていると推定されているという。番組には、麻薬ビジネスが警察の内部まで浸透しているとの告発者も登場していた。タリバンの時代は麻薬を厳しく取り締まっていたのだが、現政権下で軍閥が台頭し、また農村が疲弊したこととあいまって、麻薬ビジネスが完全に復活している。
すでに日本はアフガンに2000億円復興支援しているという。赤ちゃんもいれた日本人一人あたり1700円くらい出していることになる。今の腐った政権をてこ入れしても金が無駄になるのではないか、というより、むしろ事態を悪化させるのではないかと危惧する。
国際社会がアフガンに手を突っ込むとすれば、中村さんたちの手がけているような地道な農村再生を核にし、それを諸政治勢力超党派で応援せざるを得なくするようなスキームをつくれないものだろうか。
(つづく)