「手打ち」に向かうアフガン

オバマ大統領の一般教書演説をライブで見ていた。
一般教書演説といえば、8年前、ブッシュが「悪の枢軸」発言をやったのだなあと感慨深い。今年は、80分のうちほとんどが国内問題で、外交・安保は9分にしかすぎなかったという。「二つの戦争を戦っている」(オバマ)にもかかわらず、ここまで内向きということに驚く。アフガンについても、来年7月から兵士の帰国を始めるとし、「困難な日々が待ち構えているが、成功する自信がある」と言葉少なだ。
アフガンはどうなっているのか。国内で密かに何かが動いているような気配を感じる。
今月、タリバンは首都カブール市内で襲撃事件を起こし、存在感を示している。それに反して、やっと選挙に勝ったカルザイ大統領は、任期はじめから立ち往生だ。
アフガニスタン下院は16日、カルザイ大統領が指名した閣僚17人のうち、10人の承認案を否決した。1月2日に17閣僚の承認を否決したのに続くもので、議会の異例の反旗に直面した大統領は、2期目就任から約2か月を経ても組閣のめどが立たずにいる。》(読売)
こうしたなか、カルザイ大統領は、タリバンにはっきりと融和策を取りはじめた。安保理の制裁リストから旧タリバン政権高官をはずしてくれと頼み、国連はこれを受けて削除したのだ。
《国連安全保障理事会は26日、国際テロ組織アルカイダアフガニスタンの旧タリバン政権に対して行ってきた資産凍結や渡航制限などの制裁の対象者リストから、旧タリバン政権のムタワキル外相ら元高官5人を削除したと発表した。安保理の制裁委員会が25日に承認した。》(共同)
これら5人はタリバンをすでに離脱したとか「タリバン穏健派」などといわれているが、公的な活動をするための偽装転向であって、裏でタリバン中枢につながっているのは確実だ。カルザイ政権とタリバンの「手打ち」が着実に進行しているように思える。
その一方で、カルザイアメリカを一日でも長くアフガンに引きとめようとしているようだ。そうしないと、簡単にタリバンに政権をつぶされ、殺されるかお払い箱になってしまう。
こうした大統領の姿勢に、アメリカは匙を投げたかっこうだ。
《米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は26日、アイケンベリー駐アフガニスタン米大使が昨年11月に送った公電の詳細な内容を伝えた。この中で同大使は、カルザイ・アフガン大統領は「戦略的パートナーとしてふさわしくない」と断言。「大統領は指導者の責任を回避し、彼と取り巻きは米軍撤退を望んでいない」と非難している。
 大使はアフガン軍について、戦死者や離脱者が多く「兵力の現状維持だけでも毎年数万人の新兵が必要」と指摘。治安権限移譲の難しさを嘆いた。
 さらに、隣国パキスタンについても「国境沿いの(武装勢力の)聖域がある限り、今後も唯一最大のアフガン不安定化要因であり続ける」と懸念している。》(時事)
もうどうしょうもない、という嘆きに聞こえる。
28日から70カ国が参加するアフガン支援国際会議がはじまった。
アフガニスタン安定化への支援策を協議する国際会議が28日、ロンドンで始まった。カルザイ大統領は「我々は5年以内に治安面で主導的な役割を果たす」と述べ、タリバンとの国民和解に向けた政治プロセスや政治改革、汚職対策に取り組む方針を表明した。
 会議では、アフガン軍・警察の増強とともにISAFからアフガン側への段階的な治安権限の移譲スケジュールを協議。米国が来年7月の駐留米軍撤退開始を目指す中で、英タイムズ紙によると、「5年以内」の権限移譲が検討される。
 一方、タリバンの穏健派や下級兵士の離反を促す「再統合計画」では、日英がイニシアチブをとり、5年間で最大5億ドル(約450億円)規模の国際基金の創設を打ち出し、各国に貢献を訴える。資金を投降兵らの職業訓練や生活費などに充てる構想だ。福山哲郎副外相は、日本が同基金に5000万ドルを拠出する意向を表明した
 関係国には、軍事力だけではアフガン安定化は困難であり、政治プロセスの後押しが必要との認識が強い。米国も部隊増派によりタリバンを弱体化させた後、将来的には政府との和平交渉に着かせることで「政治解決」を図る構想を視野に入れている模様だ
 開戦から8年が経過したアフガンでは、タリバンの攻勢で昨年の駐留外国軍の犠牲が過去最高となった。軍派遣国は、早期撤退を求める世論が強まる中で「出口戦略」を示すことを迫られている。》(毎日)
タリバンとの国民和解》、つまり、カルザイ政権とタリバンの手打ちでも何でもいいから、早く「形」をつくって、泥沼から抜け出したいという「国際社会」の本音が見える。
はじめはタリバンの撃滅だったのだが、アフガンにおける勢力関係の現実は、「手打ち」しかない。それを認めざるを得ないということだろう。
それにしても、《タリバンの穏健派や下級兵士の離反を促す「再統合計画」》につぎ込まれる莫大な資金は、どこにいくのか。それがタリバンに流れることになると、どうなるのか。「手打ち」の先はまだ見えない。