きょう電車に乗ろうと駅に行った。駅の入り口で、30代のアジア系の女性が近づいてきて、私に透明なファイルに入った紙を見せた。
「私は〇〇(名前)です。いまこまっています。助けてください。」と書いてある。そしてチョコレートを見せて、買ってくれという。
突然のことで驚いたのと、急いでいたこともあって、「ごめんね」と言って通りすぎてしまった。ホームに着いてから、ちゃんと事情を聞けばよかったと反省した。怪しい金集めもあるが、ほんとに困っている、例えば技能実習生だったりする可能性はないか。
《新型コロナウイルス禍で働けずに国内にとどまる技能実習生が、昨年末時点で少なくとも1千人超いる一方、昨夏以降に新たに4万人超の実習生が入国したことが朝日新聞のまとめで分かった。実習生は昨春からコロナ特例で「転職」も認められたが、再就職が十分に進まないまま、次の実習生を大量に受け入れている状況が浮き彫りになった。》
「失業」中の実習生がいるのに、入国禁止になる前に駆け込みで実習生を呼んだのだろう。日本人でも多くの失業者が出るなか、きびしい状況になっているのではと危惧する。
身の回りの外国人の境遇をもっと知らなくてはと、自戒をこめて思う。
・・・・・・・・・・・
先日書いた、日本の入管の収容制度についてのつづき。
去年の9月、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」は、日本政府に入管法のすみやかな見直しを要請する意見書を送った。意見書は、不法滞在者などを長期に拘束する日本の入国管理収容制度を、「国際人権法と国際人権規約に違反している」と厳しく批判している。
実は、この意見書が出るきっかけになったのは、一年前の19年10月に、日本で難民認定を申請している2人が国連に通報したことだった。
その一人がデニズさんという、トルコ国籍で少数民族クルド人の当時40歳の男性だ。デニズさんは国連に通報する直前、自殺を図るまでに追い詰められていた。
19年9月22日、茨城県牛久にある「東日本出入国管理センター」(牛久入管)に収容中のデニズさんは、コーラのアルミ缶を引き裂き、その切り口で手首を切った。続いて首を切ろうとして、同じ被収容者に止められ、事なきを得たのだった。
デニズさんが自殺しようとした事情は、彼を取材してきたジャーナリスト、樫田秀樹さんによればこうだ。
デニズさんは19年6月22日から7月10日までの約3週間と8月16日から9月20日真での約1ヵ月、水だけ摂取するハンガーストライキを行っていた。
牛久入管では5月から被収容者のハンストが始まり、最大時100人が参加するまでになっていた。ハンストの要求は、収容を一時的に解く「仮放免」だった。牛久では9割以上が1年超も収容されており、中には5年を超える人もいる。被収容者は我慢の限界を超えていたのだ。
デニズさんははじめのハンストのあと、8月2日に仮放免され、じつに3年2ヵ月ぶりに日本人の妻と再会できた。ところが、その仮放免の期間はわずか2週間だけ。そして8月16日、理由も告げられずに再収容されてしまった。
再収容されたデニズさんは、その日からまたハンストに入った。そして9月20日、牛久入管は再びデニズさんに仮放免を認めるが、その期間がまた2週間だけだと告げられた。
自分はもう一生ここから出られないのか!
絶望したデニズさんは遺書を書き、22日に手首を切った。
デニズさんが生れ育ったトルコでは、クルド人が差別や弾圧を受け、政府への強い反発もある。デニズさんも反政府デモに参加して拘束され、警察に暴行を受けた。2007年、デニズさんは弾圧を逃れ、「平和な国」というイメージを持っていた日本にやってきた。
デニズさんは何度も難民認定の申請をしているが、いずれも不許可。そのうち観光ビザのままで働いたことが「不法就労」とされ、牛久入管に10ヵ月収容されることになる。その後は仮放免と収容を繰り返し、16年6月から3回目の収容をされていたのだった。
在留資格のない外国人を収容する施設は9ヵ所あり、2019年6月末時点で1253名が収容されている。牛久入管に収容されているのはうち316名。その3分の2が難民認定申請中か、それが不許可となった人たちで、残り3分の1が、観光ビザや就労ビザなどの在留資格はあったが、オーバーステイなど何らかの法律違反で収容されている人たちだ。
日本政府は、難民の認定にはきわめて厳しい姿勢をとっている。欧米では、トルコで迫害を受けているクルド人は優先的に難民認定されるが、日本ではまだ一人も認定されていない。
難民認定の申請が不許可となれば、入管は本国への送還を命じる「退去強制令書」を出すが、そもそもその国にいられない事情がある人たちなのだから、多くは帰国を拒否する。そこで入管は「帰還の準備が整うまで」との前提で、そうした外国人を収容しているわけだ。
その収容環境は、常識では考えられないほど非人道的なものだ。
(つづく)