アメリカでよみがえる「社会主義」3

 人類は幸福になっているのか、それとも不幸になっているのか。

    ベストセラーになっているロスリング『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)は、「世界はよくなっている」ことをアピールしている。
 この種の本には、ヨハン・ノルベリ『進歩~人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)もある。同じように多くの統計を使いながら、世界の子どものワクチン接種率はすでに高いし、識字率は急速に上がっているし、貧困率は下がっている、全体としてかなり速いスピードで世界はマシになっているという。

 これをどう解釈するかはいずれ書いてみたいが、先進国では、現代史で初めて、親の世代より子どもの世代が貧困化する時代に突入したという。アメリカでの若者の急激な左傾化と右の熱狂的なトランプ支持は、危機の表現と解釈できる。

 というのは、トランプ支持層の中核とされるのが、新自由主義のもとでのグローバルな競争によって失業や賃下げなどの不利益を被った白人たちで、激しく敵対し憎悪しあう民主党極左とトランプ支持の極右はともに「負け組」同士だからだ。
 「もうこんな社会ではやってられない!」という悲鳴が、既成の秩序を拒否し、左右への分極化を招いているのだろう。

 さて、きのう紹介したアメリカ最大の社会主義政党DSA(アメリカ民主社会主義者)について調べてみたら、思ったより影響力のある組織のようだ。

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DSAのロゴ。赤いバラに、肌の色が違う二人の握手する手

 「2016年に6500人だったメンバーが2018年には5万人に増え」たときのうブログに書いたが、今年10月時点では7万5千人を超えていた。たった4年で10倍超というすごい増え方だ

 またDSA(アメリカ民主社会主義者)は2018年、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏を民主党から下院(任期2年)に送ったが、実はもう一人の活動家も当選していた。この二人はともに今回、大統領選挙とともに実施された下院議員選挙で再選を果たし、さらに新たに2人のメンバーが当選確実になっている。
 下院選挙では大統領選挙と同じく、まず党内で候補者を選ぶ予備選挙があり、実力のある現職議員が多い都市部から民主党候補として出馬するにはかなり高いハードルがある。4名も連邦議会に送り込むとは大したものである。

 アメリカの若者がめざす「社会主義」とはどんなものなのか。
 DSAはホームページによると、「働く人々が経済と市民社会の両方を運営する」分権型の社会を目標とし、中央集権的な「共産主義」には断固反対している
 そして、「少数者ではなく大衆の利益に合致する民主主義」のためには「政府および経済構造のラディカルな改革」が必要だとしつつ、当面の政策として、全国民向けの健康保険制度の確立、人種・性・宗教などのあらゆる差別の撤廃、気候危機に対する抜本的な対策、最低賃金の大幅アップ、富裕層への増税、反ファシズムなどを掲げている。グリーンニューディールも支持しており、この点、バイデンの構想に親近性がある。

 DSAは民主党に浸透して内部から変えていく戦術を採っているので、バイデン政権の諸政策、とくに気候と人権、福祉については左傾化する可能性がある。そこで、中道派が激減した構図のなかで左右の激しい主導権争いが予想される。

 「社会主義者」の存在を念頭において今後のアメリカ政治を見ていきたい。
(つづく)

 

 以下、沖縄写真展「琉球弧」から。

 

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山田實《壺屋のこどもたち 那覇》1965年

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山田實《祭りの日 糸満市真栄里》1968年

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比嘉康雄《本土集団就職 那覇港》1970年 返還2年前。孫を見送っているのか。この表情がいろんなことを想像させる。