弾圧の法制化が急ピッチで進む香港

 香港の「中国本土化」の動きが、あまりにも速くてとまどう。 

 「香港国家安全維持法」(国安法)施行を受けて、香港政府は、法律の運用方針を決める「国家安全維持委員会」を設立し、6日、初めての会合を開いて捜査の手続きなどの具体的な規則を決定した。
 会合には、林鄭月娥行政長官らに加え、中国政府から派遣された同委員会顧問の駱恵寧主任も参加した。

 香港政府の発表によると、規則は、
 〇緊急の場合などは警官に捜査令状なしの立ち入りや証拠収集を認める
 〇行政長官の許可があれば当局による通信傍受が可能
 〇国家の安全に危害を加える情報の削除をプロバイダーに命じることができる
 〇捜査対象者には、海外への逃亡を防ぐためパスポートの提出を求めることができる
 〇当局に虚偽の資料を提出すれば、10万香港ドル(約140万円)以下の罰金と2年以下の禁錮刑を科すなど、当局に強い権限を与えている。
 この規則はすでに7日から適用された。

 また、中国政府の出先監視機関「国家安全維持公署」が8日、発足し始動した。

 自由の制限がどんどん「本土なみ」になっていく。

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 香港では、抗議活動がいまもゲリラ的に行われているが、集まる人数が激減。定番だった「光復香港 時代革命」(香港を取り戻せ 我らの時代の革命だ)のスローガンが国安法違反になるので白紙の紙で抗議の意思を表している。

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天安門事件の資料を展示する記念館を運営する元立法会議員の李卓人さん。市民の間で萎縮する空気が広がっているが、あくまで香港にとどまると決意をのべる。

 一方、国安法施行を受け、市民の通信の自由がどんどん制限されていくなか、IT大手各社の対応が注目されている。
 フェイスブックツイッター、グーグルの3社は、香港政府によるユーザーデータ提供要請への対応を停止し、新法に一丸となって対抗している。これは、ソーシャルメディア各社が、香港はもはや「一国二制度」ではなくなったと判断したことを示すと思われる。
 
 フェイスブックやグーグル、ツイッターといったソーシャルメディアは、香港以外の中国ではサービスが禁止されている。こうした中、中国でサービスを展開しているアップルやマイクロソフトにも対応を求める声が高まっているという。
 《アップルが公表している透明性報告書によると、同社は今年1~6月の間、香港政府からの情報開示請求のほとんどに応じている。
 マイクロソフトも同じく、香港当局にユーザーの情報を渡していたが、国安法を受けた対応などは発表していない。
 BBCは両社にコメントを求めている。》(BBC https://www.bbc.com/japanese/53317373

 

 中国本土でも言論弾圧が激しさを増している。
 中国の警察が6日早朝、改革派として知られる清華大学教授の許章潤氏(57)を拘束した。(写真は「国際報道」より)
 ニューヨーク・タイムズによれば、許氏は自宅に踏み込んだ警官によって拘束され、同教授のコンピューターや文書なども押収された。

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 中国は2018年3月に憲法を改正し、国家主席の任期を撤廃したが、許氏はこれを文革の極権政治の再来を思わせ、恐怖を呼び覚ますとして反対。1989年6月4日天安門事件に対する評価の見直しも訴え、19年、大学当局から停職処分を受けた。
 このときは日本の研究者ら70人が「許章潤教授(中国清華大学法学院・法哲学)の職務停止の撤回を求める声明」を出している。 

 許氏は今年インターネット上に発表した一連の論文で、新型コロナウイルス流行の初期対応を誤ったとして共産党を痛烈に批判し、説明責任を求めたほか、表現の自由を認めるよう政治改革を訴えていた
 6日の拘束のさい、およそ10台ものパトカーが北京郊外の自宅を取り囲んだという。まるで凶悪犯罪者の捕り物だ。見せしめにしようという当局の意図か。

 展開が急で、香港、中国の人権状況に目が離せない。

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 習近平国賓で招くというふざけた方針の日本政府に、自民党がようやく中止要請の決議を出した。当然だ。
 ところが自民党の総意と取られぬよう、「党外交部会・外交調査会として」とするなど、表現を弱めたというから情けない。

 《自民党政調審議会は7日、中国が香港での反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法」に対する非難決議を了承した。焦点だった習近平国家主席国賓訪日については「中止を要請する」から「党外交部会・外交調査会として中止を要請せざるを得ない」などに修正。中国と関係が深い二階俊博幹事長らが巻き返し、表現が弱まった》(朝日新聞

 香港人が現地で声を上げられなくなっている分、日本の政治家が党派を超えて立ち上がってほしい。