NHKのスクープ記者に何が起きたのか5

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 朝刊一面トップ。久々に「森友」が大見出しになった。
 森友学園への国有地売却の問題が大きく取り上げられる端緒となったのは、売却額を不開示としたことに対し、木村真豊中市議が情報開示を求めて裁判を起こしたことだった。https://takase.hatenablog.jp/entry/2019/05/26/115716

 メディアや国会での追及で国は開示に応じたため、木村さんは訴えを精神的苦痛に対する損害賠償請求に切り替えて裁判を続けていたが、きのう、大阪地裁は国が不開示としたことは違法だと判断し、国に3万3千円の支払いを命じた。
 しかし、木村市議は判決に大きな不満を感じている。

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「勝訴」と「不当判決」が並ぶ。右端が木村真市議。

 《森友学園の国有地取引をめぐる問題で、大阪地裁は売却額を一時不開示とした国の決定を違法と判断した。しかし、原告の市議の表情は晴れなかった。大幅に値引きされた経緯の真相は明らかにならず、もどかしさを募らせた。
 松永栄治裁判長が判決を読み始めると、原告で大阪府豊中市議の木村真さん(54)は万歳のポーズをとった。しかし聞き進むにつれて、表情を曇らせた。その後、大阪市北区で記者会見し、「すっきりしない。予想していない判決だった」と話した。
 売却価格の不開示については木村さんの主張通り、違法と認められた。一方、売買後に地中からごみなどが見つかっても国の責任を免除する条項の不開示については「合理的な根拠がある」とされた。
 判決は、判断の前提として国有地に「相当量のごみがあった」と認定した。木村さんは、国が約1億3千万円をかけて地下3メートルまでの大きなごみを撤去したのに、「新たにごみが見つかった」として大幅値引きされた経緯に触れ、「(裁判長が)肝心なところを理解していない」と憤った。
 木村さんは大学卒業後、会社員などを経て、2007年の市議選で初当選。労働問題やひとり親家庭の生活支援に無所属で取り組んできた。「物言う市議」を自任する。
 国は15年5月、豊中市にあった国有地の貸し付け契約を森友学園と結んだ。その後、工事中に地中から「新たなごみ」が見つかったとして16年6月、鑑定価格から8億円あまりを差し引いた1億3400万円で森友学園に売却した。
 地元議員として国有地の使途に関心を持っていた木村さんは、15年の暮れ、現地の掲示板で小学校の建設計画を知った。名誉校長には安倍晋三首相の夫人、昭恵氏が就いていた。
 幼稚園の運営経験しかない学園に小学校が開校できるのか。近畿財務局に貸付料や売却価格を尋ねても返答を拒まれた。16年9月、売買契約について近畿財務局に情報公開請求したところ、「契約相手の利益を害する」などとして、価格などが黒塗りにされた。17年2月8日に提訴した。
 国はその2日後、報道や国会議員の追及を受け、森友学園側の了解を得たとして売却価格を明らかにした。裁判では半年後の8月になって開示に転じ、「訴えの利益が消滅した」として請求の却下を求めた。木村さんは訴えを損害賠償に切り替え、裁判を続けた。取引の真相を明らかにしたいとの思いがあった。
 売却交渉を担当した近畿財務局の管理職の証人尋問を申請したが、国が「体調不良で出廷できない」と反対して実現しなかった。
 木村さんは「森友問題は、誰もきちんと責任を取っていない」と指摘する。今回の判決に納得がいかず、控訴を検討しているという。》(一色涼、吉村治彦)
https://www.asahi.com/articles/ASM5X4GW4M5XPTIL00T.html

 森友学園事件は、まだまだ終わっていない。報道の役割や世直しについて相澤さんは語る。

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    報道の使命は、事実をちゃんと伝えられるか。権力に不都合な事実もちゃんと伝えていくことだ。
 よく、報道の役割は権力の監視だというが、その言い方には抵抗がある。「監視」はもともと権力側の言葉で、権力が普通の人々を監視する。その権力を報道が監視するとしたら、報道は権力より上なのか。上から目線を感じてしまう。
 そうではなく、権力を監視するのは皆さん国民一人ひとりだと思う。そして、市民が権力を監視できるように、その材料となる事実を提供するのが報道の役割ではないか。それをちゃんとやっていると答えられる報道機関がどれだけあるか、こころもとない。
まったくできていないわけではない。NHKも相当ちゃんとやっていると思う。ただ、そうでない部分があり、しかもその「ない部分」が一番肝心なところだったりするから、みなさん不満があるのだと思う。
 では、市民一人ひとりに何ができるか。基本は「声をあげること」が一番だし、実際上それしかない。権力はもとより、NHKや報道機関に対して声を挙げることが一番ですべてだと思う。
 自分たちなんか声を挙げても全然聞いてもらえないだろうと思うかもしれないが、NHKでの私の経験からいうと、意外と効いている。「視聴者ふれあいセンター」に来た電話、メール、ファックスは全部集計されて上に上がっていく。それがある程度まとまった件数になると、現場にフィードバックされてくる。
 例えば、最初に森友学園の事件がはじまったときに、関西では放送されたが全国放送にはならなかった話をしたが、その後なぜ全国放送されるようになったか。民放がわーっとワイドショーなどで放送しているのに、なぜNHKは全国放送をしないんだ、森友について一切報道しないのはけしからんと、具体的な苦情がたくさんきた。そうするとNHKは視聴者の声に応えようと、現場に「森友をちゃんと報道しろ」と指示がきた。そこで、手の平を返したように、これまで何もやってなかったのがとたんにワーッとやるようになった。そのあたりがNHKは「役所」だなと思うが。(会場笑)でも少なくともみなさんの声で変わった。
 苦情を言うときは具体的に言ってほしい。いついつ放送のこのニュースのこの部分はこうだからけしからんと。漠然と「NHKは安倍政権寄りだからけしからん」だと、単なるクレームになり、あまり一般論だと相手にされない場合もある。集計して報告されるのは、何について苦情を言っているのか分かる苦情だ。
 できればいいところも言ってほしい。良いニュース、良い番組だってある。電話を受けるのも人間、集約されたものを受け取るのも人間。批判ばかりされるといやになるが、良いことを言ってもらうとほっとして、逆に批判も聞きやすくなる。「この人はちゃんと誉めるべきところを誉めてくれてる。じゃ、こっちも読んでおこうかな」とそういうところが人間の心理としてもある。というふうに皆さんの声を積極的に届けることが重要だ。NHKに対しては、安倍政権だけでなくどの政権にも対峙していけよと伝えていきたい。
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 以上、25日の相澤さんの講演から一部を紹介した。実にまっとうな考え方であり、大いに勉強になった。NHKのどこがどのようにおかしくなっているかもよくわかった。

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 講演のあと、せっかくだからと著書にサインをもらいにいったら、揮毫の言葉は「取材は愛」だった。取材対象と、思想信条ではなく人間として分かりあえることが大事だという意味らしい。その信頼関係からスクープが生まれたのだろう。学ぶべき取材者の心構えである。