NHKのスクープ記者に何が起きたのか4

 オーストラリアの旅から。
 帰国便は、シドニー空港での乗り継ぎに時間がたっぷりあり、昼食をかねて街に出た。木々の葉が色づき、南半球は秋である。

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シドニーのシティホール前。古い建物と超高層ビルが共存している。きれいな街並みである。

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埠頭で弾き語りをやっていたおじさん。

 街を歩いて気づいたこと。
 白人以外の人が、私が思っていたより多い。特にチャイニーズは目立っている。
 日本の存在感も大きい。通りを走るは日本車が圧倒している。酒屋にビールを買いに行ったらアサヒ、キリン、サッポロがそろっていた。日本に行ったことがある人もとても多い。日本に親しみを感じている人に出会うことが多かった。滞在中、毎日のようにどこかで「コンニチワ」と日本語で声をかけられた。
 シドニーでたまたま話をした若い男性に「オーストラリアは親切な人が多いね」というと、「いや、日本人こそ親切だよ。僕は日本が大好きで、毎年行ってる。もう7回訪問した。将来は日本に住みたい」とべた褒めだった。ごく限られた地域での短い滞在での印象だが、これまで訪れた国のなかでは親日度は3本指に入る感じだ。(残りの二つはイランとトルコ)
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 森友学園問題の取材でNHKを事実上追い出された記者、相澤冬樹さんの講演つづき。

 NHKを追い出されたということは、相澤さんは「左翼」記者なのかと思うかもしれないが、大間違い。
 「明治維新のふるさと」山口県が初任地で、吉田松陰を心から尊敬し、「松陰神社のカレンダーを自宅はもちろん職場にまで飾る、自他ともに認める『真性右翼』の記者である」と相澤さんは自らを言う。(著書『安倍官邸VS.NHK』P21)酒場で軍歌を歌うこともあるそうだ。
 相澤さんはジャーナリストの心構えについても講演で語っているが、まっとうな報道人であるかどうかは、右翼、左翼に関係ないことがよく分かる。報道と民主主義というテーマにかかわる部分を紹介する。
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 こんな仕打ちを受けるとは思っていなかったが、今でもNHKを愛している。
 31年間受信料で取材し、記者として育ててもらった。いい仕事をしたという自負もある。志あっていいものを一生懸命制作している仲間たちもいる。さまざまな圧力のなかで苦しんでいるが、それは一部の上層部のやっていることで、NHKの組織全体もしくは仕事している人の責任とは違う。これからもNHKを応援していきたい。


 NHKの報道はけしからんと思っている人は多いと思うが、ほとんどのニュースはまともだ。ただ一部に、主に政治報道の分野だが、おかしなことがあり、とくにこのところ、べったり政権寄りといえるような報道があるのは間違いない。ちょっとでもおかしなことがあったら、全部がおかしく見えるものだ。これはまずい。
 もっとまずいと思うのは、悪しき前例を作ってしまうこと。安倍政権が終わったら誰かが別の政権を作る。与党か野党か別にして。では新しく政権を取った人はどう思うか。君たち、安倍さんのときはこんな報道してたでしょ、おれのためにはやらないの?(会場笑)
 政権が変わったら、またそっちの政権べったりにならなければならなくなる。それでは、まずいわけだ。公共放送として、どこが政権を持っていようが、ちゃんと公平中立にやりますということでみなさんから受信料いただいているわけだから。でもこの悪しき前例を重ねるとそれができなくなる。視聴者から信頼を失って、受信料を払ってもらえなくなることにつながるので、これは早く変えないとまずいなと心配している。

 

 官邸の圧力は、NHKにかぎらず、民放とか新聞の方に聞くと、なにかしらあるそうだ。もしくは忖度(そんたく)。よく安倍総理が、報道機関のお偉いさんとか社長さんと夕食したりが動静欄に載る。ああいうことの積み重ねだ。介入してくるのがムチだとすれば、ああいう人間関係作っていくのはアメの部分。アメとムチの両方で報道介入しているといえる。
 

 そもそも記者は何を目指すのか。
 東大入学式での上野千鶴子さんの祝辞が話題になっている。新入生に、優秀だから入学できたのではなく、恵まれているからここにいる、あなたの力を恵まれない人のために使ってほしいと言った。私を含め、大手マスコミの記者は恵まれている。(相澤さんは東大法学部卒業)恵まれていることにも気がつかない。恵まれてきたことを世の中に還元していかなくてはならない。

 ネタ(情報)をとってくるのがいい記者、とマスコミの世界ではよくいわれる。だが、そうだろうか。ネタさえとってくれば汚い手段をつかってもよいとなりかねない。何のために取材して何のために報道するのか、が二の次になりかねない。
 「リーク」という言葉がある。リークは、権力側の人が自分に都合のいいように情報を特定の記者にもらすこと。リークは危険で、あくまで記者は「情報を取ってくる」という姿勢が大事だ。権力から情報を取って来るにしても、権力にとって都合の悪い情報を取って来るのが大事だ。
 何のために情報を取って来るのかを考えてください、というのが私の持論。結局、世のため、人のためにということ。これが、自分が恵まれていることを世の中に返すということだ。要は弱者の声をちゃんと伝えようということだ。
(つづく)