米軍基地を「引き取る」3

 日本ではほとんど報道されないが、シリア・東グータの惨状は筆舌に尽くしがたいようだ。22日のブログで紹介したように、東グータは、ロシア、イラン、トルコの三カ国が非武装化で合意した安全地帯の一つだが、アサド政権は2013年から包囲を続け、いま激しい無差別攻撃を加えている。
《国連のパノス・ムムツィス人道調整官は二十日、東グータ医療機関五カ所が爆撃されて機能不全に陥ったと明らかにし、意図的に狙った「戦争犯罪も同然だ」と厳しく非難した》とロイター通信が伝えるように、アサド政権軍はクリニック、病院、そして医師や看護師など医療従事者を狙い撃ちにしている。2012年、安田純平さんは、反政府軍自由シリア軍)が自治を行なう町に入り、アサド政権軍によってクリニックが爆撃され、医師がスナイパーに狙われるという非道を報じている。(このとき私がプロデュースしてTBS「報道特集」で放送した。)アサド政権軍は、はじめからずっと、市民に銃を向けてきたのである。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120820

 また、アサド政権軍は住民に対して化学兵器まで使用しており、シリア系アメリカ人医療者協会SAMによれば、今回の化学兵器使用は、2011年以降197回目であり、今年に入ってからは7回目になるという。https://twitter.com/sams_usa/status/967861394279460864

 いくつもの勢力が複雑に合い戦うシリア情勢だが、「どっちもどっち」と見てはならない。
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 さて、きのうの続き。
 米軍基地を沖縄から本土に「引き取る」運動に対して、米軍基地がやってきたら、女性への性的被害が起きるのではないか、それにどう責任を取るのかとの問いが寄せられる。これにどう答えるのか?
 「本土に沖縄の米軍基地を引き取る福岡の会」の里村和歌子さんは、「では、沖縄での米兵犯罪に、あなたはどう対処しているのですか」と反論する。
 「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動(引き取る行動・大阪)」の松本亜季さんはこう考える。
 「基地を引き取るうえで対策を講じることは必要です。ただ、犯罪が起こるからという理由で、沖縄に基地を置いたままにしておくのは別問題。私にも小さな子供がいるから、子供には静かな環境で育ってほしい。でも、それは沖縄では叶えられない。沖縄の子供たちは、生まれながらにして基地を押し付けられている。だから逆に尋ねたいんです。あなたは、沖縄の犯罪に責任を取れるのかと」。
 これは、引き取りを主導した団体の責任問題ではなく、全住民で考えるべき問題だというのだ。

 大阪、福岡の他、次第に運動は広がっている。
 新潟県でも2016年11月、「沖縄に応答する会@新潟」が引き取り運動が始まった。17年1月にはワークショップを開催している。
 1950年代まで新潟空港は米軍に接収されていた。当時、多くの県民にとって米軍基地問題は自分事であり、空港の拡張計画も、それに反対する知事を当選させるなどで食い止めた。その歴史を振り返ることで、基地問題を他人事と考える今の意識を見つめ直したいと設立人の福本圭介氏(新潟県立大学准教授)は考えている。沖縄に基地を押し付けているのは私たち本土の市民ではないかというのだ。
 17年2月には、東京でも引き取る運動がスタート。政府は普天間飛行場の移設は「辺野古が唯一の方法」というが、本土で「引き受ける」と声をあげればそうは言えなくなる。そのためには国会議員を動かすまで運動を拡大するのが目標だという。
 「引き取る」運動には、沖縄からも応援の声が届くという。
 以下は、沖縄の高校2年生が15年3月に沖縄タイムスに寄せた手紙の要約だ。
 「学内で辺野古移設反対の人、賛成の人もいます。家族や親戚の間でも、仕方ありません。ですが県民として辺野古の海を破壊したくはありません。普天間も危険です。一番の解決策は里村さん方のような団体が増えていき、少しずつ本土に移設、そして沖縄と本土の均一な基地保有を実現していくことが、沖縄と本土の平等に繋げていくと思います」。 

 以上の記事を書いたジャーナリストの樫田秀樹さんは、最後にこうまとめている。
 《とにかく重要なのは、これまで沖縄任せで済まし、起こることがなかった本土での基地負担の議論を起こすことだ。米軍基地問題は沖縄ではなく、日本の問題であることだけは間違いない。》
 胸にひびく、根本的な問題提起である。