トランプ、スーチー二人がスピーチ

 
19日、トランプ大統領が国連総会で演説。酷かったな。
 《米国が「自分や同盟諸国を防衛するしかない状況になれば、我々は北朝鮮を完全に破壊するしか、選択の余地はない」と述べた。(略)イランが「見せかけの民主主義のふりをした、腐敗した独裁国家」で、「主要輸出品は暴力と流血と混沌だ」と名指しで非難し、2015年のイランとの核開発合意は「米国にとって最悪で最も片務的なやりとりのひとつだ」と批判。ベネズエラ政府についても、腐敗した「社会主義独裁国家」で、米国は行動に出る用意があると警告した。》BBC
 ともに理想に向かって進もうというアピールが全くなく、気に入らない対象を罵るばかり。あまりにも品がない。アメリカファーストまで言及している。国連総会で、である。
 スウェーデンのワルストローム外相がBBCに対して、「あの場所であの時に、あの聴衆を前に、あのような演説をすべきではなかった」と批判したというが、そのとおり。
 もう一つのサプライズは、北朝鮮による拉致問題に触れたことだ。
 北朝鮮が、13歳の可愛い日本人少女を日本の海岸から拉致し、北朝鮮のスパイの語学教師として奴隷化したことを我々は知っている」("We know it kidnapped a sweet 13-year-old Japanese girl from a beach of own country to enslave her as a language tutor for North Korea's spies,")
 下品な演説でも、この言及の広報効果は大きい。早紀江さんも急遽会見に引っ張り出され感謝の念を述べていた。アメリカに何でも従うのではなく、アメリカを利用するという観点に立ちたい。
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 同じ19日、アウンサンスーチー氏は国連総会を欠席して各国の外交官や国内外のメディアを前に演説した。「帰還を希望する人の身元確認手続きをいつでも始める用意がある」と述べ、国内への帰還を受け入れる考えを示した。ただ、具体的措置への言及はほとんどなく、「ロヒンギャ」という言葉も使わなかった。
 国際社会からスーチー氏の腰の引けた対応に批判が強まっている。スーチーさんの言動を、軍隊や警察の実権をスーチーさんがいまだ持っておらず、そこから国軍に配慮せざるを得ないからだとの解説が多いが、そうではない。背景にあるのは、圧倒的な国民がロヒンギャミャンマーの民族とみなしておらず、反感を持っていることである。つまり、スーチー氏は民意に従っているのである。2年前、ミャンマー国民のロヒンギャへの拒否感の強さを知った時はちょっとショックだった。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20150620
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120617
 軍事政権に抵抗してスーチー氏を支持してきたいわゆる民主化勢力自身が、ロヒンギャの救済を疑問視する。
 ヤンゴンで13日、軍事政権時代に民主化や人権を掲げて運動を続けた活動家らが記sy会見を開いた。テーマはロヒンギャ問題だった。
 「彼らはミャンマーの民族ではない。政府を批判するのは間違っている」。活動家らは外国メディアの報道姿勢を批判した。
 メンバーの一人、ジミー氏は朝日新聞の取材に「イスラム教徒を排除するつもりはないが、国民でない人を国内に受け入れることはできない」と断言した。》朝日新聞20日

 今回の反目は、仏教徒イスラム教徒でもない。ロヒンギャ以外のイスラム教徒も「ロヒンギャ」にはまったく同情的でないのだ。
 《国内では掃討作戦を「襲撃事件を起こしたテロリストへの攻撃」とする意見が目立つ。人口の9割近くを占める仏教徒を始め、ヒンドゥー教徒ロヒンギャ以外のイスラム教団体からも「政府の姿勢を支持する」との声が上がっている。
 イスラム教組織の幹部は朝日新聞の取材に「ロヒンギャは多くの国民にとって『よそ者』。襲撃事件でさらに反感が高まっている」と話した。》朝日新聞

 そもそもの話になるが、「ロヒンギャ」という固有の民族はいないようだ。
 バングラデシュ南東部の方言に似た言葉を母語とするイスラム教徒のロヒンギャミャンマー政府や国民の多くは「移民」とみなし、大半が無国籍、イスラム教徒は王朝時代から今のラカイン州の地域に暮らしていたとされるが、多くは19世紀以降の英領植民地時代、さらには1948年の独立後に不法に流入したと考えられている。
 フランス国立極東学院のジャッカス・レイダー氏によれば、イスラム教徒が自らを「ロヒンギャ」と呼ぶ文書は、50年代のものが最初。当時国境付近に住んでいた人たちが、自治を主張するため、土着民族「ロヒンギャ」として発信するようになったと、レイダー氏はみている。だが、これが多くの国民の反発を生む。
 ミャンマー報道委員会副代表のアウンフラトゥン氏はラカイン州出身の仏教徒。「現地の仏教徒は、イスラム教徒におびえて暮らしている」と言う。》朝日新聞20日

 国際的には批判が高まるスーチー氏だが、国内では支持がどんどん高まっているという。いわゆる「ロヒンギャ」避難民への緊急支援が必要であることは間違いないが、すべての人に国籍を与えるという解決策はむずかしい。