北朝鮮核武装で問われる安保

 北朝鮮がミサイルを発射し、Jアラート(全国瞬時警報システム)が北海道、東北など12道県に避難を呼びかける大きな騒ぎになった。きょう早朝5時57分、平壌近郊の順安(スナン)地区から弾道ミサイル1発が発射され、日本上空を通過して襟裳岬の東方1180?の太平洋上に落下した。
 安倍首相は「これまでにない深刻かつ重大な脅威だ」と記者団に語り、トランプ大統領と40分間電話会談したあと「北朝鮮に対して圧力をさらに強化していくことで日米は完全に合意した」と説明した。トランプ大統領は、「全ての選択肢が机上にある」と再びすごんでみせたものの、具体的には、また国連安保理をひらいて、さらなる「制裁」を決めるくらいしかない。日本政府は北京の大使館ルートを通じて北朝鮮に「最も強い形で抗議した」というが、残念ながら、いつものように北京の北朝鮮大使館にファックスを送りつけるしかない。
 テレビは朝から夜まで延々ミサイル問題を取り上げているのだが、手詰まりなのが誰の目にも明らかなので、スタジオトークも新味がなくだれ気味。スタジオに並んだ識者も相も変らぬ迷走ぶりだ。
 ただ、この大騒ぎを笑ってはいられない。
 北朝鮮の日本に対する脅威の質がここ数年で大きく変化したことは確かで、「国防」を根本的に見直す必要があると私も思う。これまでは朝鮮半島に有事があって、それをどうするかという問題であり、それにかけつける米軍を日本が後方で支えるのは当然だと思われてきた。日本に直接「タマ」が飛んでくることは、日本人は想定していなかったのだ。
 現在、北朝鮮は、日本を射程に置くミサイルに核弾頭を搭載して実戦配備している可能性が高い。つまり、日本への核攻撃の脅威はすでに存在し、今問題になっているアメリカに届くICBMの開発は、日本への脅威には直接関係がない。
 日本への脅威に関係ない事態で、アメリカと北朝鮮との間で戦争が起きるとすると、北朝鮮の核攻撃のターゲットになるのは日本の米軍基地だ。これは日米同盟関係が、日本が核攻撃を受けるリスクを高めることを意味する。北朝鮮からの核攻撃という点だけを考えると、日本に米軍基地がないほうが安全だということになる。
 北朝鮮核兵器を持ったという現実に向き合わなければならない今、我々の安全保障についての考え方が問われている。
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 小池百合子東京都知事が、関東大震災朝鮮人犠牲者の追悼式に追悼文を送るのを取りやめたことが問題になっている。一部の犠牲者を特別扱いしないと言い訳しているが、朝鮮人虐殺をなかったことにする意図を感じる。トランプ大統領が白人至上主義者とその反対者との衝突を「どっちもどっち」に扱ったことに通じる。「何とかファースト」というスローガンを掲げる集団に共通の体質なのか。
 吉村昭関東大震災には朝鮮人虐殺に関する詳しい記述があり、日本政府が殺害された朝鮮人の数として発表した231人と、法学博士、吉野作造が関東地方と長野県で殺された人数として結論づけた2,613人.の違いについても触れている。政府発表は実態のごく一部でしかないが、朝鮮人と間違えられた日本人57人が殺害され、49人が負傷し、中国人も4人が殺されたとされる。何人もの日本人が、朝鮮人と間違えられて襲われるという、異常な興奮状態のなかで虐殺事件が多発したのである。虐殺の激化に警視庁が狼狽し、検討した結果、朝鮮人暴動説は全く根拠のない流言であると断定し、政府は内閣告諭で民衆に警告した。

内閣告諭第二号
 今次の震災に乗じ、一部不逞鮮人(ふていせんじん)の妄動ありとして鮮人に対し頗(すこぶ)る不快の感を抱く者ありと聞く 鮮人の所為若(も)し不穏に亘(わた)るに於ては速(すみやか)に取締の軍隊又は警察官に通告して其処置に俟(ま)つべきものなるに民衆自ら濫(みだ)りに鮮人に迫害を加ふるが如きことは固(もと)より日鮮同化の根本主義に背戻(はいれい)するのみならず 又諸外国に報ぜられて決して好ましきことにあらず 事は今次の唐突にして困難なる事態に基因すると認めらるるも刻下の非常に克(よ)く平素の冷静を失はず慎重前後の措置を誤らず以て我国民の節制と平和の精神を発揮せむことは 本大臣の此際特に望む所にして民衆各自の切に自重を求むる次第なり
              内閣総理大臣伯爵 山本権兵衛

 行間から、いかに事態が異常ですさまじかったかがうかがえる。
 こうした事実は、決して繰り返されぬよう次代に伝えていく必要がある。