拘束直前の常岡リポート―奪還された町

イラク政府軍がモスル市内に入ったとの情報。
《過激派組織「イスラム国」のイラクでの最大拠点、モスルの奪還作戦で、イラク軍の報道官によると軍の特殊部隊は1日、モスル東部の地区に入った。テレビ局を制圧しイラク国旗を掲げたという。》(日テレ)
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昨夜、ラジオのJ−WAVEに電話出演した。JAM THE WORLDという番組の“CUTTING EDGE”というコーナーでキャスターの堀潤さんと、モスル奪還作戦と常岡浩介さん拘束について電話で掛け合いをした。実は常岡さんが出演予定だったのが帰国できなくなり、替わりに私が出たという次第。
常岡さんについては「イスラム国」メンバーであるとの容疑であれば、解放まで長引く可能性もあるだろうと。また、奪還作戦については、戦況がどうかというのも重要だが、膨大な数の住民が亡くなったり家を失ったりすることが心配だと語った。
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常岡さんは27日に拘束されたとみられるが、その前日26日には、イラク軍が「イスラム国」から奪還したバルテラという町に入って取材していた。私にその様子を送ってきていたので紹介したい。「イスラム国」支配の実態と現在の前線の戦闘状況がよくわかるリポートだ。
バルテラはモスルの東20kmほどの地点で、町にはイラク政府軍とシーア派民兵が入っていた。
空爆(どの軍が爆撃したかは不明)で町は徹底的に破壊され、戦車砲やロケット弾などで壁に大穴があいている家も多い。

道路の歩道を歩いていたら、シーア派民兵に「歩道は危険だぞ」と言われた。見ると歩道の植え込みに電線が引かれており地雷が仕掛けられているのがわかった。
民家の壁には《「イスラム国」兵士の所有物》、《シーア派の家》《スンニ派の家》などと文字が書かれ、宗派ごとに扱いを分けていたことがわかる。スンニ派の家はそのまま残っている一方で、シーア派キリスト教徒など他宗派の住民の家々はことごとく破壊され家の中は火がかけられて焼け焦げていた。
解放されたばかりの町はほとんど無人だが、二年ぶりに故郷に戻った少数の住民がいた。住民が自宅に入る前、シーア派民兵が、家の中を慎重に調べ、爆弾がないか確認する。実際、常岡さんが入った家から仕掛け爆弾が発見された。戻った住民は、自宅の破壊された惨状に涙を流していた。彼らはシャバク教という少数派の宗教の信徒。モスル周辺は、イスラム教以外にキリスト教や少数派の宗教の信奉者も多いという。
町の中でも目立つシリア・カソリック教会に入ると、聖母像はこなごなにされ、附属施設は略奪・破壊されていた。壮麗な礼拝堂は床も柱も黒く焼け焦げていた。「イスラム国」が撤退する際、火をかけたらしい。

【礼拝堂の中、床には火をかけた痕が】
珍しく破壊を免れた大きな建物があったが、それは「イスラム国」司令部だった。女子小学校の校舎を接収して司令部にしたという。爆弾が仕掛けられている可能性があるので、中に入るのは禁じられた。
以上の常岡さんのリポートからは、戦闘ではない「イスラム国」による破壊のすさまじさがうかがえる。住民を宗教でレッテル貼りし画然と分けて統治するさまはナチズムを彷彿とさせる。
常岡さんは、あまりの破壊ぶりに、町の再建にどのくらいの時間がかかるのかと心配していた。
また、近くに赤新月社が運営する広大な避難民キャンプが設営され、見渡す限りテントが並んでいたという。すでに避難民の姿が見られたというが、モスル市内への侵攻と市街戦を控え、住民の犠牲が懸念される。

【見渡すかぎりテントの並ぶ避難民キャンプが設営中】
イスラム国」は、徹底抗戦の構えで、住民を「人間の盾」にする可能性がある。国際機関は膨大な数の避難民が出るのを予想し、キャンプを作ったり食糧の用意をしているという。地域住民の運命にも関心をもって今後の進展を見守っていただきたい。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は28日、イラク軍などが奪還作戦を続ける過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点、北部モスル市内に、ISが数万人規模の住民らを周辺部から強制移動させた可能性があることを明らかにした。人間の盾に使う恐れがある。またISは、強制移動の命令に従うのを拒んだ市民や元イラク軍関係者ら計232人を殺害したという。イラク第2の都市モスルには、国連によると、最大で市民150万人が取り残されている。》毎日新聞http://mainichi.jp/articles/20161029/k00/00e/030/204000c