障害者を美化するのは「感動ポルノ」か

 二百十日。これは立春から数えた日数で、台風が来るので警戒すべき日として暦に載るようになったという。
 あす2日からは処暑の末候、「禾乃登」(こくのもの、すなわちみのる)。稲穂が色づきはじめる。
 ゆうべ、帰宅したら、畳の上に蝉が。ヒグラシのようだ。どの窓も網戸を閉めているのに、いったいどこから入ったのか。ベランダに出してやるが、ほとんど動かない。死期が近いのだろう。
 蝉は成虫になって数週間しか生きられないのでかわいそう、という話を聞いたことがあるが、幼虫の時期は3年から17年におよぶそうで、実はとても長寿の昆虫らしい。まあ、いずれにしても、「かわいそう」などというのは人間の基準で勝手に言っているわけで、どの生きものもみな命を全うしているのだ。
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 この間、メディアをめぐる話題がいろいろあった。

 28日、NHKのEテレの生放送の情報バラエティー番組「バリバラ」で「検証!『障害者×感動』の方程式」と題した生放送があり、障害者を感動仕立てに描くことは差別だとして裏番組の「愛は地球を救う」をパロディー化した。番組では《「清く正しい障害者」が頑張る姿を感動の対象にすることを「感動ポルノ」と表現し、「感動は差別だ」との障害者の声を伝えた。同時間帯は日本テレビ系で障害者の姿を伝えるチャリティー番組「24時間テレビ」が放送中だった。》
 《「障害者の感動的な番組をどう思うか?」と健常者と障害者100人ずつに聞いた調査では、「好き」は健常者が45人に対し、障害者は10人。健常者の好きの理由は「勇気がもらえる」「自分の幸せが改めて分かる」など、障害者は「取り上げてもらえるなら、感動話でも仕方ない」だった。英BBCが障害者を英雄や被害者として描くことが侮辱につながるとしたガイドラインを20年前に策定したことも紹介した。》(毎日新聞

 【車椅子のジャーナリスト、ステラ・ヤングさん(享年32)が「感動ポルノ」と批判】
 障害者の感動話を、健常者でさえ55%が嫌っている事実は、そこに差別感が背景にあるのを知っているわけだ。こういう番組をNHKがやれるというのがおもしろい。「斬りこんでくれたNHKに拍手!」というツイッターが公約数的な感想だっただろう。
 大好評で今夜再放送となった。

Youtubeでも見られます。https://www.youtube.com/watch?v=uFHQAKBJA-I

 もう一つ話題になったのがこれもNHKの生放送。NHK総合「解説スタジアム」(「どこに向かう 日本の原子力政策」)だ。
 《驚くべきは、解説委員7人のうち6人が政府や原子力規制委員会、そして電力会社の問題点を徹底的に批判していたことだ。さらには「原子力再稼働を認めない」という驚きの発言まで飛び出していた。そのためネット上でも「国民必見」「解説委員の勇気か反乱か!」「NHKはまだ腐っていなかった」など絶賛されている。(略)内容もたしかに原発再稼働の是非や核のゴミ問題、そして原発の将来像などかなり踏み込んだものだったが、なかでももっとも鋭く切り込んでいたのが財政・金融・エネルギー担当の板垣委員だった。》
http://lite-ra.com/2016/08/post-2532.html
 板垣信幸委員は、私の高校の同期で、3年ほど前、私と一緒にある会合で原発について講演したことがあった。放送では「安易な再稼働はぼくは認めたくない」と断言していた。私は生放送では見逃したのだが、放送開始後から、ツイッターで「これがNHKとは思えない!」「過激な議論が続いている」などと異様に盛り上がっていた。
 これもyoutubeで見られます。https://www.youtube.com/watch?v=pv3pH9e2RpU

 ネット上でも激賞する意見があいついだ。例えば、茂木健一郎氏。
 《地上波テレビというメディアに可能性があるのは、先に挙げた「バリバラ」や「解説スタジアム」がネット上で話題になり、結果として私を含め多くの人が視聴したことでもわかる。というのも、地上波テレビの「同時性」が、トレンドをつくる上で大きな力となるからだ。(略)
 「バリバラ」は、障害を持つ方をある図式に当てはめて「感動」を押し付ける「感動ポルノ」の構図を描いて素晴らしかったし、「解説スタジアム」は、日本の原子力政策をめぐる問題点を多角的、かつテクニカルに指摘して、素晴らしかった。本来、このようなコンテンツこそが、放送されるべきだろう。》http://lineblog.me/mogikenichiro/

 これらの番組の放送にどんな配慮、力学があったのか、分からないが、おちゃらけた番組ではなく、正面から問題提起する、視聴者に考えさせる番組が大きな支持を受けたことにテレビの可能性を感じさせる。また、この二つの番組がいずれも生放送だったことも示唆に富む。