英国EU離脱と「近代の呪い」

「刻一刻伝えられる票数を、固唾を呑んで見守っています」
と英国からのリポート。この半分でもわが国の参院選に関心が向けば、などと思いつつ報道を見ていた。
残留派議員が殺された事件で残留票が増えたはずなのに「離脱」が勝ったということは、事前の予想より英国民の離脱の意思は強かったのだろう。
こうなると・・・

トランプが当選しても驚かぬ(朝日川柳より 東京都 関博之)

そういうことだ。

 ちょうど、渡辺京二を読み直していて、教えられることが多い。特に最近の内外の出来事をもっと深く理解するためには、そもそも「近代」とは何かをあらためて考えることが必要だと教えられる。グローバリズムナショナリズムを強めることは近代の構造でいわば運命づけられていると渡辺は言う。

市民社会が成立し、市民が国政に関与する権利と自覚を得たというのは、それがひとつの国民国家内の出来事である以上、インターステイトシステム内のプレイヤーとして必要な国家統合を強化する一側面であることを免れません。いや、市民社会というのは国家権力に抵抗するのだといってみても、それはひとつの国家内だけでの話で、いったんインターステイトシステム、すなわち国際社会に登場すると、市民社会はンステム内の利己的プレイヤーたる国民国家と一体化せざるをえない。万国対峙の状況下では、市民社会はむしろ国民国家的統合を強化する役割を担うのです。国家のことに関心がない熊さん八さんは、ナショナリズムの担い手たりえません。ナショナリズムの担い手は、国政に関与する権利と自覚を獲得した市民であります。(略)
 二〇世紀はウッドロー・ウィルソン大正デモクラシーが示すように民主主義の時代です。オルテガ・イ・ガゼットのいう大衆の蜂起の時代です。そして史上かつてないような民族的迫害とジェノサイドは、この二〇世紀に史上初めて出現したのです。このことの意味をよく考えていただきたい。日本なんて国は海に沈めてしまえなどという過激な言辞が中国のインターネット上で飛び交い、またその逆の言辞が日本のインターネット上に出現したのは、一部の論客が市民の自由な発言の手段として希望を託した先端技術のためであったことも考えていただきたい。
 つまり、市民的自由とか民主主義といった美名のもとに、大衆が天下国家を論じ始めて以来、かえって民族浄化であるとか、ショーヴィニズムの風潮が高まっている。これは大衆の無知のためとか民度が低いからというのではなく、国民国家が世界経済の中での利己的なプレイヤーでなければならぬ現実のもとに、民衆を教育して天下国家にめざめさせることは、結局国民国家によって民衆が掌握される度合を強化する結果をもたらすからです。
 今日の市民はいろんな情報を与えられています。デトロイトの労働者は自分の会社の景気が悪く、自分たちが失業しかねないのは、トヨタやホンダのせいだと情報を与えられておりました。世界経済がグローバル化するにつれて、自分が属する国民国家の地位が生活に直結する例は増加するのですから、グローバリズム国民国家を逆に強化することになります。われわれはますます国民国家の枠組にとらわれ、国益以外の視点は閉ざされてしまうのです。》(『近代の呪い』P27〜)

 近代民主主義の発祥の地とされる英国が「ナショナリズム」に走り、また英国の内部から別のナショナリズムが噴き出す図は、渡辺の指摘を裏付けているようだ。
 大きな問題だが、ブログでも触れていきたい。そして、その克服の方策があるかどうかについても。