トランプはまだましなペテン師?

共和党の大統領候補選びでトランプ氏が勝ち続けている。
はじめは、「まさか」と思っていたのだが。
この現象をアメリカの識者はどうみているのか。興味深い分析を二つ紹介しよう。

リベラル派の大御所、ノーム・チョムスキー氏(マサチューセッツ工科大学名誉教授)は、アメリカ社会に深く根ざした「恐れ」と「失望」が火をつけている側面があるという。
トランプ氏は、女性、ラテン系、イスラム教徒、その他マイノリティーを標的にした憎悪と暴言をよりどころにして旋風を巻き起こしているのだが、その「原動力は低学歴の白人労働者層だ」という。
チョムスキー氏によると、「白人で低学歴で中年男性という特定の層は寿命が短い」という。「自殺の急増、アルコール依存症による肝疾患、そしてヘロインの過剰摂取や麻薬の処方が原因」で、「特定の世代に怒り、絶望、不満を残した政策の影響で、彼らは自らを傷つける行動に走って」おり、これがトランプ氏の人気の背景だという。
1930年代の大恐慌と今を比較して、チョムスキー氏はこう語る。
「客観的に見て、貧困と困窮は今より遥かにひどいものでした。だけど貧しい労働者や失業者には、今はない希望がありました」。
闘争的な労働組合の成長や、主流から外れた政治組織の存在があったからだ。
今日、貧困にあえいでいるアメリカ人は「絶望とあきらめ、怒りの縁に沈んでいます。その絶望や怒りは、彼らの命と世界を脅かす制度を解体しようとするのではなく、もっと多くの犠牲を払うような方向へと向いています。ヨーロッパでファシズムが興った時と状況は似ています」。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/28/donald-trump-noam-chomsky-white-mortality_n_9343538.html
ファシズムの勃興期に似ている、か。リベラル派のある意味、オーソドックスな分析だが、さすがに恐いな。
格差が広がり、組織された強力な反対勢力がいないなど、日本にも共通しているように思えて・・

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「トランプ氏は、彼を阻止しようとする(共和党の)既成勢力以上のペテン師なのだろうか。実はそうでもない」と言うのは、08年にノーベル経済学を受賞したプリンストン大学名誉教授のポール・クルーグマン氏だ。
外交政策では・・
「彼は好戦的ではあるが、ルビオ氏と違って、ネオコンつまりイラク戦争の大失敗の責任を負う人々から気に入られているわけではない。みんな知ってはいるが、右派なら誰も認めないはずのことまで口にしている―ブッシュ政権は故意に米国をあの悲惨な戦争へと欺き導いたのだ、と
ああそれから、それが何を意味するかをどうやら知りもせず、市民を「じゅうたん爆撃」したがっているようなのは、トランプ氏ではなく、テッド・クルーズ氏だ」。

内政では・・
「米国を再び白人の国にすると約束する一方で、同時に、社会保障制度と高齢者医療制度を保護すると約束し、富裕層への増税をほのめかす」トランプ氏に共和党の既成勢力は激怒しているという。
「既成勢力がトランプ氏に手を焼いているのは、彼がペテンを働くからではなく、彼がペテンを妨害しているからではないだろうか」。
そして結論はこうだ。
我々はトランプ氏の人気上昇を歓迎すべきである。そう、彼はペテン師だ。だが、ほかの人たちのペテンを告発する役割も事実上、担っている。信じがたいだろうが、この奇妙で厄介な時代に一歩前進を意味するのである」。
(NYタイムズ4日付の抄訳が朝日新聞11日付に載っていた)

この解釈はおもしろい。
危機の時代、米大統領選がアメリカをどの方向に向かわせるのか。
サンダース対トランプの決戦がみたい。

実は、私はチョムスキー氏ともクルーグマン氏ともひょんなことから会ったことがあり、ともにとてもいい印象を受けたので、事あるごとに彼らの見方をチェックするようになった。これも縁である。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090401