「新人類」の若者たち

 中東では、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官の殺害を歓喜で迎えた人たちも多い。アサド政権の圧政に苦しむシリア人もそうだ。
 一時期は気息奄々だったアサド政権をロシアとともに軍事的に支え、ISや他の反政府勢力との戦いに勝利させ、現在のようにシリアの大部分を支配するにいたらしめたのは、ソレイマニ司令官の指揮下にあるイラン革命防衛隊であり、その子飼いのシーア派民兵である。いわばアサド政権のつっかい棒であり、民衆から恨まれる存在だった。

 1月1日、私たちが正月気分でいた日に、シリア反政府勢力の最後の拠点、北西部のイドリブ県では「少なくとも22に及ぶ空襲」があったという。また、アサド政権軍が発射した地対地ミサイルで、学校にいた4名の子どもを含む6名の民間人が死亡した。
 アサド政権による軍事攻撃は、病院や学校などをターゲットにする非人道的なものだ。https://takase.hatenablog.jp/entry/20191019 それがここ数週間、とくに激しくなっているという。国連によると、イドリブでは12月だけで、28万4千人もの人々が攻撃により家を追いやられたという。
 そこに届いたソレイマニ司令官の死亡の報である。イドリブでは、民衆が通りに集まり彼の死を喜び、トランプ大統領を讃えたという。https://twitter.com/AsaadHannaa/status/1213110894584094722

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イドリブでソレイマニ司令官の死を祝い、お菓子を配る人

 18年、ヨルダンで多くのシリア難民と知り合ったさい、難民のなかでのトランプ人気の高さに驚いたことを思い出した。https://takase.hatenablog.jp/entry/20181222
 当時、アサド政権の化学兵器使用に対する「人道的介入」として、トランプ政権はシリアに59発の巡航ミサイルによる空爆を実施したのだった。「トランプがバカだっていうのは知ってる。でも、オバマも誰もこれまでアサド政権への攻撃をやってくれなかったじゃないか。トランプしか頼れるものはいない」と言った難民の言葉は忘れられない。
 ソレイマニ司令官はここでは明らかに「反人道」の側にいた。
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 行き詰まり感に絶望したくなる今日だが、最近、括目すべき若い人たちの出現に驚くことが多くなった。
 分かりやすいところではスポーツ界。張本智和大坂なおみ、八村塁、そしてスケートボードボルダリングなどの新しい競技での十代のスターアスリートには、ただ歳が若いだけではなく「新感覚」を感じる。
 また、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんなどの若い社会活動家を見ていると、我々とは思考回路が違っているのではと感じる。
 この世界も捨てたもんじゃない。そんな思いを持つのである。

 『人類滅亡を避ける道』という関野吉晴さんの対論集を読んでいたら、若者に期待する声が載っていた。
 写真家の藤原新也氏。(自然と人間の関係について)
 《僕らのように自然を身近に感じる環境で育って、ある意味でおいしい思いをした世代が、若い人たちに対して「自然に帰れ」と言ってはいけないと思うんです。わかりやすいアジテーションだし、簡単に言えてしまう。でも、それを言っては何も始まらない》
 《でも、僕はそれほど現状を悲観的に見ているわけではないんですよ。いままでわれわれが持っていた生き方や価値観とは違った尺度を持った若者が出てきていると感じます。そこに、われわれからは推し量れない希望や可能性があるんだろうと思うんですね》
 《私の周囲にも物質的、経済的な豊かさではなくて、別の角度から生きる意味を考え始めている若者たちがたくさんいます。一般論でいっても、いまの40代の世代までは、会社に忠誠を尽くして、がむしゃらに働いて収益を上げて、持ち家を持って・・というひとつの幸福の、人生の形があった。けれど、いまの若者は会社をパッと辞めてしまう。もちろん忍耐力のなさもあるのかもしれない。ただ、それだけではないと感じます。かつての世代とは、生き方、幸福の尺度が明らかに変わってきている》
(つづく)