ほんとうは怖いタイ

takase222013-11-29

タイが大変なことになっている。
この国は、私の第二の故郷であり、ハラハラしてみている。
《タイの首都バンコクで29日、インラック首相の退陣を求めるデモ隊が、陸軍本部の敷地内に突入し、軍にデモを支持するよう求めている。デモ隊はまた、与党・タイ貢献党の党本部も包囲した。
軍報道官によると、デモ隊は門を突破して陸軍本部の敷地内に侵入した。現在、陸軍司令官は不在にしているという。 
バンコク旧市街にある陸軍本部の敷地内では、多数のデモ参加者たちが旗を振ったり、日傘を差したりして居座っている。デモ隊の指導者は「軍が民衆と独裁者のどちらにつくのかを知りたい」と述べた。 
インラック首相については、事実上の亡命生活を送っている兄のタクシン元首相の操り人形となっていると批判されており、バンコクでは、反タクシン派のデモ隊が、「タクシン体制」の打ち切りと選挙によらない「人民評議会」による統治を訴えて反政府デモを続けており、複数の政府庁舎を包囲している。》(AFP)
このデモ隊はいわゆる「黄色シャツ」側(反タクシン派)で、25日から財務省、外務省はじめ政府の省庁を占拠。公務が停止して、日系企業でも、貿易業務手続が滞ったり、影響が出ているという。さらに、全政府機関の占拠まで呼びかけ、傍若無人にふるまっているように見える。日本人の目から見て異様である。
(「人民評議会」という不思議な提案については後で説明する)
ここ数年、タイでは、すさまじい政争が続いている。
デモ隊のTシャツの色分けで言えば、「赤シャツ」対「黄色シャツ」の闘い。
2010年の大騒動では、治安部隊が「赤シャツ」隊を暴力的に鎮圧し、90名の死者を出す流血の惨事となった。ロイターの村本博之カメラマンが銃弾で命を落したのを憶えている人もいるだろう。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20100412
タイは、大きなデモと大洪水がときどき起きるというイメージがあるかもしれないが、この政争が、どういう意味を持っているかは、日本ではほとんど知られていない。
それもそのはず、実は、タイ在住のマスメディアは、はっきりしたことを書けないのだ。
次の記事を読むと、多くの人は驚くと思う。あの微笑の国タイ、「自由」という意味のタイという名を冠した国が、こんなに自由を制限していることに。
《タイの政局と王室、王位継承問題などを扱ったオーストラリアのドキュメンタリー番組のコピーCDを販売したとして、タイ人男性(37)が不敬罪に問われた裁判で、タイ刑事裁判所は3月28日、被告に懲役3年4カ月の実刑判決を言い渡した。
 問題の番組はオーストラリア放送協会(ABC)が制作し、2010年4月に放送された。当時、タイ政府は番組の内容が不適切だとしてオーストラリア政府に抗議し、ABCはバンコク支局のスタッフが不敬罪で投獄される恐れがあるとみて、放送前後に同支局を一時閉鎖した。被告はこの番組のコピーCDを販売したとして、2011年3月に逮捕された。
 不敬罪はタイ国王夫妻と王位継承者への批判を禁じたもので、違反した場合、1件につき最長15年の懲役が科される。人権保護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、1990年から2005年にかけ、不敬罪の裁判は年4、5件程度だったが、反王室のイメージがあるタクシン元首相派と特権階級を中心とする反タクシン派の政治抗争が激化した2006年以降は累計で400件以上に上る。今年1月にも、タクシン派雑誌の元編集者のタイ人男性(51)が掲載した記事が王室を中傷したとして不敬罪で懲役10年の実刑判決を受けた。》(2013年4月2日Newsclip)
不敬罪」!!があるのだ。
政争と王室をからめて描いた豪ABCは、支局閉鎖!である。そしてその番組のコピーを売ったタイ人が、懲役3年4カ月の実刑!である。

まるで、韓流ドラマを見ただけで収容所に送られる北朝鮮のようではないか!
この不敬罪の摘発が、政争にからんで近年激増しているというのだ。
これでは、怖くて「ほんとうのこと」は報道できない。特に支局を持っているメディアは。
2010年の「赤シャツ」隊は、銃剣で弾圧されたのに、今回の「黄色シャツ」デモ隊は、政府の建物をいくつも占拠したばかりか軍にまでデモをかけても誰も逮捕されない。なぜか。
「黄色シャツ」デモ隊の扇動者、ステープ元首相(民主党)(写真)は、逮捕状が出ているのに、《これを笑い飛ばした。「逮捕するなら別の機会にしてくれ」と言い、「私は忙しい」と述べた》(ウォールストリートジャーナル)
全然怖がっていない。なぜか。
ここには、王室にからむ「危険な真実」が隠されている。
(つづく)