落とした財布が戻ってくる国

takase222013-10-28


今朝の朝日歌壇より。
検診の後にゆずの香匂い立つ湯舟で思う命あること
              (飯田市)草田礼子
歳をとったせいだろう。
あとどのくらい生きていられるかな、まだ何とか無事でありがたいな、などとよく思うようになった。
ましてや、検診を受けたりしたらと思うと、この歌には同感する。
・・・・・・・・・
北京は、十数年前トランジットで寄ったとき以来だった。
気がついたのが、人々の声が大きいこと。
写真は、ジャージャー麺の店だが、店員のお兄さんたちは、怒鳴りあいをしているのかと思うほどの音量で客を案内し注文をとる。客もまた大声でしゃべりながら食べているから、店内は日本人からすると大変な騒ぎに聞える。
人間とはこれほど音を発する生き物なのか・・・

取材をコーディネートしてくれたのはR君という30代の、実に気の利く、頭の回転のはやい男だった。
酒好きで毎晩飲んでは、中国社会論を我々にレクチャーしてくれた。
もちろん、薄熙来(はくきらい)−収賄と横領、職権乱用の罪に問われた元重慶市共産党委員会書記(元政治局員)−の評価にも触れた。薄熙来は私が帰国したあと、25日、山東省の高級人民法院(高裁)が無期懲役とした一審判決を支持し、刑が確定した。
R君に言わせれば、薄熙来のポジションで、約二千四十四万元(約三億三千万円)の賄賂などというのは額が小さすぎて普通なら問題にもならない。
「こんなのは、私の知り合いの内蒙古の大企業の副社長がポケットに入れるレベルの額です」。
その知り合いとやらはまだ40歳くらいで、つい最近、夫婦で北京に1週間遊びにきた。R君が毎日案内したのだが、滞在中、100万元(1700万円)を超えるお金を使ったという。超1流ホテルに泊まり、外車1台をはじめ、あらゆる高級ブランドの洋服やバッグ、装飾品を漁るように買っていったのだそうだ。
こんな「はした金」で訴追されるというのは、事件が、薄熙来が権力闘争に敗れたという政治問題だったことを意味するというのがR君の解釈だ。したがって、彼の妻、谷開来の殺人罪も事実だとは思えないという。
「でも、これについてネットなどで議論することは許されないから、真相は当分分からないでしょうね」とR君。

この青年おもしろいな、と思ったのは日本での経験を話してくれたときだ。
R君は以前、東京に3ヶ月ほど住んでいたことがあり、そのとき酔っ払って20万円入りの財布をなくした。銀行に預けられないから有り金すべてをいつも身につけていたという。つまり全財産をなくしたわけだ。
青くなったR君だったが、「日本では財布を落としても必ず戻ってくる」という神話は本当だった。タクシー会社が、財布が車内に置き忘れられていたと届け出てくれたのだ。
感激したR君、日本人はなぜ落ちている財布を届けるのか、いろいろと考えをめぐらした。
R君は中国の友人たちと、このことを夜っぴて語り合ったという。
我々中国人のモラルはどうすれば変わるのかと。
(つづく)