「ガイアの夜明け」で取材対象になった人たちと番組の反響などを語り合っている。
先週末は、シニアデザインの「カリスマ」として取り上げた今井啓子さんと江ノ島で(写真は片瀬江ノ島の駅)でお会いした。江ノ島なぞめったに行かないので新鮮だった。とてもレトロな雰囲気の観光地である。
きのうは赤坂で、北極圏ツアーの旅行社「グローバルユースビューロー」の古木(こぎ)会長と一献かたむけた。
報道系の番組は、取材対象から嫌われるものが多い。日本に住んでいる北朝鮮工作員、偽ブランド品を売るチェーン店の社長、高齢者を騙して高価な商品を売りつける業者などなど。自宅前で待ち受けて突撃取材。マイクを突きつけた瞬間「帰れ!」と怒鳴られたり、へたをすると裁判で訴えられることもある。私自身、「名誉毀損」で訴えられて、2年間、裁判をした。
それに比べて、「ガイアの夜明け」などでは、取材して喜ばれるのである。この点はありがたい。
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きのう紹介した高橋真理子氏(朝日新聞・編集委員)の論説「女性と放射線 心配しすぎる必要はない」は、福島の若い女性に、安心して結婚して子どもを産んでいいんですよ、とエールをおくるものだった。
私はこの人を個人的には知らないが、例えば、宇宙物理学者、村山斉さんとの対談などで、彼女の素養の深さに感心させられることが何度かあった。
彼女は最近も物議をかもす記事を書いている。
参議院選挙の結果が出た後の7月31日に載った「山本太郎議員への手紙」である。サブタイトルは「『放射性廃棄物と同じ基準値の食品』という表現をマスコミがしない理由」。山本太郎氏が、選挙期間中とんでもない発言をしていたが、メディアがあまりたしなめないなか、これは勇気ある論説だと思った。
《拝啓 山本太郎さま
参議院議員当選おめでとうございます。山本議員はかねてから「放射性廃棄物と食品の基準値は、1キロあたり100ベクレルで同等。それを子どもに食べさせているのが日本。その事態をマスコミは報道しない」と主張されており、当選直後のテレビインタビューでも同じ趣旨の発言をされました。言論の自由を最大限尊重するのが私どもの基本的立場ですが、放射能汚染に対し「日本の食品の基準値が甘い」という印象をふりまくご主張は事実と異なり、看過できません。事実と異なるこの発言によって、迷惑を被る生産者、不安を募らせる消費者がいます。これは深刻な問題であり、大変憂慮しております。マスコミが「放射性廃棄物と食品の基準値は同じ」という表現をしないのは、電力会社などスポンサーの圧力のせいではありません。その理由をこれからご説明します。
まず、放射性廃棄物の基準を確認しましょう。確かに、原子炉等規制法に基づく基準として「1キロあたり100ベクレル」という数値があります。これは原発を解体したときなどに出るコンクリートや金属の放射線量が「1キロあたり100ベクレル」以下ならそのまま再利用して構わない、という基準です。花崗岩には天然の放射性物質が比較的多く含まれますが、これは建築材料として盛んに利用されています。そうした自然材料との比較から、1キロあたり100ベクレル以下なら気にせずにリサイクルしてよいという基準になっています。
原発事故の直後には、「自然環境からも放射線は出ている」という説明があると「そんなことを持ち出して事故の影響を過小評価しようとしている」という反発がありました。あれだけの大事故の後にそうした気持ちになるのは理解できますが、すでに2年以上たったのです。事実関係を冷静に見て議論するのが、今や当然のマナーでしょう。自然の状態でも放射線が飛び交っているのは事実です。その量を測定してみると、数値は一定せず、わずかな場所の違いなどで相当大きく変わることがわかります。これが出発点です。
このことを理解できたとしても、「外で使うもの」と食品の基準値が同じだと聞いたら、誰しも憤慨したくなるでしょう。数値だけ見たら、「1キロあたり100ベクレル」というのは同じなのですから。でも、これは違う種類を同じ土俵に載せているのです。外にある放射性物質と、口から体内に入ってくる放射性物質を同じ基準で考えることはできません。だから、コンクリートの基準と食品の基準を比べても意味がないのです。
たとえて言えば、「身長110センチ以下の方はジェットコースターに乗れません」という基準と「身長110センチ以下の方はバス運賃無料」という基準があったとして、「同じ基準で一方は無料で乗れるのに、一方は乗れないとはけしからん」と言っているようなものです。「あそこの遊園地は100センチなのに、なぜこちらは110センチなのか」というならわかります。関係ないものを持ち出されても、「何いってんの?」でおしまいです。
食品の放射能基準にこれを当てはめると、コンクリートの基準と比べても「何いってんの?」でおしまいなのです。ただし、ほかの国の基準とは比較できます。食品汚染が気になった方なら、ほかの国の基準を調べてみたはずです。そして、国によって大きな違いがあることに驚かれたことでしょう。
「1キロあたり100ベクレル」という日本の食品基準値は、2012年4月から実施されたものです。それ以前は、穀物や野菜の放射性セシウム濃度の基準値は「1キロあたり500ベクレル」でした。その時点でまとめられた表を参照して1キロあたりのベクレル数を比較すると、韓国や台湾は370と日本より下でしたが、シンガポールやフィリピン、ベトナムは1000、米国は1200でした。タイは日本と同じ500です。この当時は、日本は厳しいとはいえないけれど、甘くもないことがわかります。そして、昨年4月から基準値を100ベクレルに下げた結果、日本は世界の中でももっとも厳しい部類に入りました。
では、チェルノブイリ原発事故を経験した国は、どのような基準値を定めているのでしょうか。昨年、ウクライナに取材に行ったときの報告をWEBRONZA2012年8月27日号に書きましたが、そのときの表を再掲します。事故1年半後の1987年12月に改定された数値を日本の2012年4月改定の数値と比べれば、日本の方がずっと厳しいことがわかります。
しかも、食品の放射能検査体制は、今や日本が世界一整っています。いくら厳しい基準値を作っても検査体制が伴わなければ、それこそ「絵に描いた餅」ですが、日本の関係者は基準値ごえの食品が市場に出回らないように懸命に検査を続けています。
厚生労働省のホームページをご覧になれば、自治体が実施した検査結果をまとめて見ることができます。これをチェックするのはなかなか大変ですが、平均的な食生活による内部被ばく線量の推計値も厚生労働省は公表しています。いくつかの地域で食材を購入してその放射能量を測定し、それでどれくらい内部被ばくをするか、計算して発表しているのです。今年6月に発表された最新データによると、セシウムによる内部被ばく線量は年間0.0009〜0.0057ミリシーベルトと推計され、自然に含まれる放射性カリウムからの線量(約0.2ミリシーベルト)と比べて極めて小さくなっています。
放射性カリウムのことはご存じですよね? 太古の昔から存在し続けている放射性物質で、カリウムを含む食品には必ず放射性カリウムも含まれています。例えば、バナナは栄養豊富で、カリウムもたくさん含む食品です。だから、放射性カリウムも他の食材に比べて多く含みます。私たち人類は放射性カリウムによる内部被ばくを避けることはできません。それが年0.2ミリシーベルト程度と推定されています。
政府の調査は信用できませんか? それなら、コープふくしまが組合員の協力を得て自主的に実施した「陰膳調査」があります。この調査は有名ですから、もちろんご存じだとは思いますが、2011年11月から2012年4月にかけて実施した100世帯の「2日分の食事を丸ごとミキサーにかけて1キロ当たりの放射能量を測る」調査の結果は、90世帯でセシウム不検出、最大でも数ベクレルでした。放射性カリウムは、どの家庭の食事にも15〜50ベクレル程度入っていましたから、セシウムからの内部被ばく線量はカリウムからのものにくらべてずいぶん少なかった。事故から1年以内の福島県内の調査で、このことがすでに明らかになっていたのです。
コープふくしまのホームページ(http://www.fukushima.coop/kagezen/2011.html)から
山本議員は「日本の食品の安全基準は放射性廃棄物と同等」と繰り返し主張し、「それがテレビから伝わってこない」と批判の矛先をテレビなどマスコミに向けています。マスコミが伝えないのは、「比較できないものは比較しない」という論理学のイロハを心得ているからであり、他の国の基準と比較して日本の食品基準は厳しいことを承知しているからであり、公的機関と民間機関を含めて食品放射能検査で大きな値が出ていないことを知っているからです。電力会社の意向とは無縁の話です。ご理解いただけましたでしょうか。
今後は、このような心ない発言をされないものと信じております。参議院議員としてのご発言に注目しております。 敬具》
これ、どう思いますか?
次回は私の考えを書きます。
(つづく)