ミャンマーの人々はやさしい。
まず、「人あたり」がとてもやわらかい。
人あたりの良さでは「微笑みの国」タイが知られているが、さらにやわらかい印象がある。対面したとき、タイ人が笑顔で前に出てくるのに対して、ミャンマーの人は遠慮して後ろに下っていくようなイメージ。
それから感心するのが、助け合いの精神だ。
知り合いのビルマ人は、家に血のつながっていない年上の女性がいて彼女を「お姉さん」と呼んでいる。近所の貧しい家の子を引き取ってずっと家族として暮らしているそうだ。こういうケースは珍しいことではないという。
そのやさしさは日本軍の兵士にも発揮された。インパール作戦から退却する途中、日本軍の敗残兵が次々に飢えと病気で倒れ、その退却路は「白骨街道」と呼ばれた。そのとき沿道の人々が、たくさんの瀕死の兵隊を助けたことはよく知られている。
『ビルマの竪琴』のように、戦後も引き揚げずに自分の意思で現地に残った兵士もいた。現地の人は自然体ですんなり受け入れてくれたそうだ。私自身、ヤンゴンで子ども孫に囲まれて暮す元日本兵二人に会ったことがある。
ビルマ人の親切は、戦後ビルマから引き揚げた兵士らの思い出に刻まれることになった。
私の伯父もビルマ戦線でマラリアに罹って死にかけた。やはりビルマ人のやさしさに惹かれていたようで、晩年、戦友とビルマを訪れる一方、ビルマ人の留学生や研修生の身元引受人になって家に呼んだりしていた。伯父もいわゆる「ビルキチ」(ビルマ気違い―ビルマが好きでたまらない人)の一人だったようだ。
子どもがまたかわいい。
どこでも小さい子どもはかわいいが、日本なら生意気盛りの14〜15歳くらいでも、実にあどけない表情を見せる。写真は、ザガインの電気もない田舎の女の子。顔に白い粉(タナカ)を塗ってニコニコしていた。
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さて、懸案の「CO2温暖化説はウソなのか」の決着をつけなければ。
小出裕章氏は、京都大学原子炉実験所で反原発の立場で研究、啓蒙を続けてきた研究者である。私もかつて、人形峠のウラン採掘問題の取材でお世話になったが、とても率直で誠実な研究者だという印象を持っている。
小出氏は、電力会社の原発推進方針と最も激しく対峙した一人であり、テレビにはめったに出なかった。テレビ局にとっては、電力会社はCMの大スポンサーであり、機嫌を損ねたくはなかっただろう。ある番組で小出氏を出したところ、すぐに電力会社からクレームがついたとテレビ局の知り合いに聞いたことがある。
福島の原発事故のあと小出氏が書いた本が何冊も緊急出版され、今も全国から講演に呼ばれるなど、非常に大きな影響力をもっている。
その彼もまた、CO2地球温暖化説に対しては懐疑的だ。小出氏のこの問題についてのまとまった発言としては、原発事故一年前の「終焉に向かう原子力と温暖化問題」という講演(2010 年1 月19 日、日本カトリック教会・正義と平和協議会・地球環境をまもる会主催)がある。
「地球温暖化、もっと正確に言えば気候変動の原因は、日本政府や原子力推進派が宣伝しているように、単に二酸化炭素の増加にあるのではありません。産業革命以降、特に第二次世界戦争以降の急速なエネルギー消費の拡大の過程で二酸化炭素が大量に放出されたことは事実ですし、それが気候変動の一部の原因になっていることも本当でしょう。しかし、生命環境破壊の真因は、「先進国」と呼ばれる一部の人類が産業革命以降、エネルギーの膨大な浪費を始めたこと、そのこと自体にあります。そのため、多数の生物種がすでに絶滅させられたし、今も絶滅されようとしています。地球の環境が大切であるというのであれば、二酸化炭素の放出を減らすなどという生易しいことではすみません。すでに述べたように、人類の諸活動が引き起こした災害には大気汚染、海洋汚染、森林破壊、酸性雨、砂漠化、産業廃棄物、生活廃棄物、環境ホルモン、放射能汚染、さらには貧困、戦争などがあります。そのどれをとっても巨大な脅威です。温暖化が仮に脅威だとしても、無数にある脅威の一つに過ぎませんし、その原因の一つに二酸化炭素があるかもしれないというに過ぎません。日本を含め「先進国」と自称している国々に求められていることは、何よりもエネルギー浪費社会を改めることです。あらゆる意味で原子力は最悪の選択ですし、代替エネルギーを探すなどと言う生ぬるいことを考える前に、まずはエネルギー消費の抑制こそに目を向けなければいけません」。(http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/JCC100119.pdf)
小出氏は、20世紀半ばからの気温上昇は事実として認めながら、その原因を主にCO2に求めることには否定的だ。
結局、地球温暖化が脅威だとしても「無数にある脅威の一つに過ぎませんし、その原因の一つに二酸化炭素があるかもしれないというに過ぎません」として、広瀬隆氏と同じく、大したことはないという結論になる。
二人に共通しているのは、原子力発電が「クリーンエネルギー」だという主張・宣伝に対する強い批判である。
では、そもそも「原発=クリーン」という考え方はどのようにして出てきたのか。
1979年、米スリーマイル島原発で炉心溶融を伴う重大事故が発生、1980年にはスウェーデンが「2010年までに全原発を廃止する」と国民投票で決定した。続いて、1986年には過去最悪のチェルノブイリ原発事故が起き、イタリアが翌87年に国民投票で原発の廃止を決めるなど、欧州を中心に多くの国で原発推進への大幅な見直しがはじまった。
この流れに明確に対抗したのは原発推進を国策にしたフランスで、1989年、CO2を出さない原子力というコンセプトを打ち出した。前年の1988年、米国NASAのジェームズ・ハンセンが上院公聴会で「最近の異常気象、とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と証言し、地球温暖化が世界的な注目を集めるきっかけになっていた。
ちょうどその時期、日本政府もまた路線を転換する。
昭和63年(1988年)版の「原子力白書」は、はじめて原子力を温暖化問題のなかに位置づけた。
「昭和63年6月にカナダのトロントで開催された「大気変動に関する国際会議」において、(略) 現在のような二酸化炭素を中心とする温室効果ガス濃度の増加が続けば、21世紀半ばまでに気温が1.5〜4.5°C、海面が30cm〜1.5m程度上昇し、大規模な気候変動や沿岸地方の都市の浸水等の影響が生ずるおそれがあるとしている。そして、このような問題への対策として、(略) 二酸化炭素の発生抑制や他の温室効果ガスの排出抑制等の実施を提言しており、その中で、原子力発電については、安全性、核不拡散、廃棄物処理の課題が克服されることを前提として代替エネルギーとなり得るとしている」。
(http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/wp1988/index.htm)
こうして、《地球温暖化=CO2》⇒《CO2を出さない原子力=クリーンエネルギー》という図式で原発推進を図るようになっていった。
(つづく)