島の取り方にみる中国の手法

中国の海軍艦艇の射撃管制用レーダー照射とその後の中国の反応(日本側の発表は「完全に捏造だ」)は、あらためて中国の体質を見せつけた。
射撃管制用レーダー照射は過去にもあったが、中国を「刺激」するからという理由で公表しなかったようだ。
外交において、水面下の取引が重要になる局面があることは否定しないけれども、今回のような重大な事件は、日本国民のまた国際世論への判断材料として公開をためらうべきではないと思う。
照射の判断が現場レベルのものか上部の許可なのかというのは、大きな問題ではない。中共と人民軍の大方針が「尖閣を取る」というものである限り、こうした「事故」はつねに起きる。
日本側は、政府も現場もかなり抑制的に対応していて、これは適切だと思う。しかし、今のままだと、海上保安庁自衛隊がいくら自重しても―尖閣にどうぞ上陸してくださいというのでないかぎり―武力衝突が起きる可能性はある。

中国がこれまで領海の問題をどう扱ってきたかを南沙、中沙諸島に見ておきたい。
フィリピンは、昨年、長年実効支配し、フィリピンの漁民が漁をしてきたスカボロー礁南シナ海中沙諸島)周辺海域をあっという間に中国に盗られてしまった。
いきさつはこうだ。
2012年4月8日、フィリピン海軍は、この海域で中国漁船8隻を「違法操業」の疑いで臨検、拿捕した。
こうした取り締まりは、時には流血の事態(2000年には中国の漁船船長を射殺)もあったが、日常的に行われていた。ところが、このとき、中国は自国民保護の名目で海洋調査船や漁業監視船などの公船を現場に急派、両国の艦船が対峙する事態になった。
にらみ合いは二ヶ月も続いたが、この間の中国の対応は強硬そのものだった。
《中国の公船は大きさと実力で全く劣る比艦に接近したり搭載ヘリを上空から異常接近させたりして激しく威嚇。しかも徐々に公船の派遣数を増やしつつ比艦をスカボロー礁に近づけないように実力行使を行った。
 その上、フィリピンに対して最も効果的だったのが、スカボロー礁での睨み合いが起こって間もない5月に、中国が発動した比産バナナなど農産物の検疫強化とそれに伴う輸入差し止め、そしてフィリピンへの「渡航自粛勧告」という名の渡航禁止令である》
 これは効いた。バナナは主要輸出品で、中国人はフィリピンを訪れる外国人観光客の4位と多い。数少ない外貨調達源の農産物と観光を直撃され、フィリピン国内から中国との衝突を避けよとの声が政府への圧力となった。
フィリピン海軍は2ヶ月の対峙の末、先にスカボロー礁から引き揚げた。
《比艦が先に引き揚げることで事態は収束したかに見えた。しかし中国の公船と漁船はそれ以降も居座り続け、現在スカボロー礁を我が物顔で走り回っているのは中国漁船である。時おり中国公船が「通常の監視活動」と称して航行している。比艦はそれを遠巻きに眺めるしかできない。》(GLOBALVISION誌№166)
こうしてスカボロー礁は、いとも簡単に中国の実行支配下に落ちた。
フィリピンは、中国がまさかここまで強引にことを進めるとは思っていなかったという。
というのは、2002年にASEANと中国は「南シナ海行動宣言」を採択しており、これに実効性をもたせる「南シナ海行動規範」の採択に向けて中国を含めて議論がなされている最中だったからだ。
スカボロー礁をめぐる中国の対応を、例えば、バナナをレアアースに置き換えたりして見れば、やり方はまるで尖閣とそっくりである。
中国はここにいたる前に、やはりフィリピンが実行支配していたミスチーフ環礁南沙諸島)を強引に取ってしまった。1990年代半ばのことだった。
(つづく)