注目の飯舘村の長泥区長と飲んだ

takase222012-07-12

渡辺京二の続きのはずだが、ちょっと割り込み。
いつもこんなふうに連載が途絶えるのだが、きょうはとても感動して書きたいことがある。
東京・阿佐ヶ谷に知り合いが経営する「ひねもすのたり」というカフェがある。そこに今夜、福島県飯舘村の長泥(ながどろ)地区の区長、鴫原(しぎはら)良友さんが来てお話しをしたのだ。
「長泥」といえば、いま原発事故被害では、日本で最も注目されている地域である。
飯舘村が、「帰還困難区域」(年間被曝線量50?シーベルト超)、「居住制限区域」(20~50シーベルト)、「避難指示解除準備区域」(20シーベルト以下)と三分割され、長泥だけが5年間は戻れない「帰還困難区域」に指定されたのだ。
16日の深夜12時をもって、長泥地区への道6カ所にバリケードが設置される。
そのシーンは、マスコミの「ヒツモノ」(たぶん「必物」=どうしても必要なモノからきた?)で、お話の途中に取材依頼の携帯電話がひっきりなしに鳴る。
「会議中ですので」と切って「いまのはNHKです」と教えてくれる。
普通のニュースをつくるなら、前日の地域の様子から取材して、「明日から通行ができなくなります」と立ちレポして、バリケード設置の瞬間を撮影して・・・となるから、ものすごい数のカメラが15〜17日に集中するだろう。うちの取材班も行くけど。
22日(日)深夜の日本テレビ系「NNNドキュメント」で弊社制作の飯舘村物語が放送されますので、ぜひご覧ください。取材・編集は石田久人ディレクターで、先日プレビューを見た限りでは、とてもよい作品に仕上がりそうだ。
今夜の鴫原さんの話はすばらしかった。
はじめに言っておくと、鴫原さんは、飯館村の菅野村長を批判する代表的人物である。そして私は、菅野村長を高く評価する一人である。
飯舘村は30km圏の外にあるのに放射線量が高く、それが伏せられたまま4月になってから「避難しなさいと」言われ、結局、役場の避難が完了したのは6月下旬という数奇な経緯をたどった地域である。ここでの菅野村長の判断(例えば、政府の「全村避難」命令を蹴って、特養施設などを移さなかった)は賛否両論あるけれど、一つの勇気ある決断だったと思う。
そこで放射線量の高いところに住民を残す結果となり、村長は「人殺し!」という非難を村人から浴びせられたのだった。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20111016
あらゆる不満は区長、村長に集中した。だって政府も東電も責任を取らないのだから。
東電のえらいさんは長泥に一度も来ていない。すべては自治体にまかされたのだった。
事故直後、政府は「20km圏内は逃げろ」と指示したが、実際にどのように住民に連絡し、どんな交通機関を確保し、どこに逃げるかは現場に丸投げされた。例えば、村役場の職員がバス会社に交渉して、これから何台借りられますか、と交渉したのである。移動中のお年寄へのペットボトルの手配もあるだろう。目に見えない膨大な作業と責任が自治体に負わされたのだった。
だから、村長であれ、鴫原さんのような区長であれ、現場の「首長」たちは、恐ろしい責任とプレッシャーのなかでこれまでを過ごしているのだ。
そこには100%の正解などない。そもそも未曾有(と政府も東電も言っている)の災害なのだ。どちらかに勝ち負けをつける問題ではないと私は思う。どちらも地獄のような事態を「よかれ」と思って奮闘したのである。
「ごくろうさま!」「えらい!」としか私は言いようがない。
そして、鴫原さんはこう言ったのだった。
「忙しくてどうしようもない」「金がなくて困った」「仕事がうまくいかない」、こういうのは最高の幸せですよ!
えっ、金がないのが、なぜ幸せなの?


ここで「CMまたぎ」として、写真は、鴫原さんが、避難した飯舘村のおばあさんたちが、いらなくなったタオルを手仕事で改造した「負けないゾウ」(あれ、がんばるゾウだったかな?酔っ払ってるので忘れた)にカンパをつのっているところ。
パンダよりかわいいでしょ?
あ、問題発言ですか。

避難して畑仕事もしなくなった高齢者は特に大変らしいが、何もやることがないのはものすごいストレスだそうで、私が以前、チェルノブイリで紹介していた話と重なる。放射能で死んだ人は少なく、ほとんどは、事故の関連死(移住で死んだり、自殺したりした人)なのだ。
これを聞いたら、カンパしないわけにはいかない。
私が好きな言葉は「義によりて」である。
例えば、親の敵討ちに燃える姉弟がいる。ついにつきとめた仇は飲み屋から出てきた。「父のかたき」。仇と見えるは、かなりの使い手らしい。しかも傍に手だれの浪人ものが二人、爪楊枝をくわえて控えている。とても勝ち目がなさそうだ。
そこに
「義によりて助太刀いたす」
でもあんまり強くなさそう。でもいいのである。「義によりて」なのだから。
酔っ払ってバカなことを書いています。
(つづく)