チェルノブイリでは新生児の85%に障害?

町内会の連絡が回ってきて、きょう、近くの公園の立ち木を剪定するので協力せよとのこと。ちょうど空いている日だったので参加した。
よく晴れた気持ちのいい日で、作業をしていると汗ばんでくる。終わったらビールが用意されていて、ほとんど話をかわすことのない近所の人たちと世間話をしながら飲んだ。
都会では「コミュニティ」などと言っても絵空事だが、将来に向けて変えていかなくてはと思う。

チェルノブイリ周辺では、ほとんどの赤ちゃんが障害児なんだそうですね」
私がチェルノブイリを取材してきたと知ると、こんなふうに反応する人がいた。
それが一人や二人ではない。
この情報の元は『チェルノブイリ・ハート』という映画のようだ。
2004年にアカデミー短編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画で、福島原発事故の後、日本で広く上映されている。
映画の公式サイトを開くと、予告編が流れ、こんな字幕が入る。
「汚染地域の新生児の85%が何らかの障害を持っている」
まさか!
映画をチェックすると;
放射能の影響だとされる心臓病をはじめとするさまざまな病気を抱える子どもたち、苦悩する家族、医療関係者が次々に登場し、観ていてとても怖くなる。
問題の箇所はこうだ。
場所は「ゴメリ市立産院」(Gomel City Maternity Hospital)。ゴメリ市はベラルーシでも放射能汚染のひどかったところだ。
出産シーンのあと、ブラコフスキーという医師(Dr Nikolai M. Burakovsky)が登場。
何%の子どもが健康に産まれるのですか?という質問に対して、
「おおむね15から20%の赤ちゃんが健康に産まれます」と答える。
それは放射能に関係していますか?と聞かれて、
「もちろんそうです」
チェルノブイリ事故の後、病気の数の増加が顕著です」
「赤ちゃんはより頻繁に病気にかかります」
「免疫システムが弱くなっています」と語っている。
そして、字幕に《ベラルーシの新生児死亡率は他のヨーロッパより300%高い》と出て、この場面は終わる。
さまざまな疑問が出てくる。
1) 産まれてくる赤ちゃんの15〜20%しか健康ではないと理解できるが、ここでいう「健康」とはどういう定義なのか。「健康でない」赤ちゃんとは何か。
2) これはこの病院だけの数字なのか。ゴメリ市全体でそう言えるのか。
予告編のように「汚染地域の新生児の85%が何らかの障害を持っている」と言い換えられるのか。「汚染地域」とはどこのことか。「健康」でないイコール「障害を持っている」なのか。
3) ベラルーシの新生児死亡率が高いことは、チェルノブイリ事故と関連すると言えるのか。実は、ベラルーシの新生児死亡率は、事故前から他のヨーロッパ諸国よりはるかに高かった。いまも相対的には高いが、次第に下降していることも事実だ。
この映画の監督、マリアン・テレジオ氏は映画と同名の本『チェルノブイリ・ハート』を出している。ゴメリ市立産院での取材の様子を知りたいと思い、読んでみた。
ところが、取材中の様子や逸話がたくさん載っているのだが、なぜか、重要なメッセージの舞台であるこの産院のことは全く触れられていない。
以前、このブログで、ECRR幹部、クリス・バズビー博士が来日したときの発言を紹介した。
「現在においても、ベラルーシで生まれる4/5人の子供は病気だ。これは福島の状況においても重要な要素だろう」
私はこれを信じられないと書いた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110731
私はチェルノブイリ取材のとき、複数の医師にインタビューし、汚染地の住民の話も聞いたが、新生児の85%が障害を持っているなどという状況はとても想像できない。
非常に衝撃的な情報であるだけに、真偽を確認したいものだ。
これについてご存知の方はぜひお知らせください。